量子医理工学コース
粒子線医理工学講座
放射線治療医学分野
放射線治療の特徴は、手術などの臓器や器官を体外に摘出することによって治療を行う外科的治療とは異なり、生体が保有している機能を温存しつつ異物である新生物・腫瘍を消失させ、個体の機能を存続させることが可能なことです。X線を用いた放射線治療や荷電粒子線を用いた粒子線治療は、腫瘍制御を目的とした線量集中性、副作用をより少なくするための正常組織や器官に対する線量の低減、体動のみならず、安静にしていても呼吸や心拍動、腸管蠕動などで絶えず位置が変動する体内臓器への対応などの課題がありますが、工学・理学の最先端の技術を導入することにより実用的かつ実効性の高い機器および治療技術開発が可能となります。本分野では、放射線治療中の体内臓器の動きに対応する技術および粒子線治療に関する研究、新たな医療技術の開発を通じてがんを始めとした疾病治癒率やQOL(Quality of Life)の向上に貢献できる人材ならびに世界で活躍できる研究者、教育者を育成します。
注目のキーワード:先端放射線治療、放射線治療医学物理、画像誘導、動体追跡装置
放射線医学物理学分野
陽子線治療に関する研究開発の例 医学・理工学技術の進歩に伴う治療成績の向上を背景に、放射線治療のニーズが飛躍的に高まっています。中でも加速器を医療に適用した粒子線治療は、がんに線量を集中させることで、患者に対する身体的負担を最小化するものと期待されています。最近では画像誘導技術を使うことで、さらに治療中の患者の動きや腫瘍の形状変化、生体反応などの特徴を取り入れた治療が可能となってきました。本分野では、放射線物理学、量子ビーム応用工学、画像工学等の理工学技術を実際の医療に活用することを目指して、北海道大学病院陽子線治療センターと連携し、副作用を最小化しつつ治療効果を向上させるための照射技術や装置開発、患者の動きや腫瘍の形状変化を詳細に取り入れた画像誘導技術開発、高精度治療実現のための線量計算・最適化手法開発、細胞レベルの反応まで考慮した治療効果の検証等の総合的な医理工連携教育・研究を行います。これを通じて医学物理分野の研究者および医療機器開発に携わる技術者を育成します。詳しくはwebサイトをご覧下さい(https://qsre.eng.hokudai.ac.jp/ )。
注目のキーワード:粒子線治療、動体追跡技術、高精度画像誘導技術
放射線医理工学講座
医療基礎物理学分野
合川 正幸 教授 (理学研究院)
実験の標的として用いた金属箔
169 Tm(d,2n)169 Ybの断面積 放射線治療や粒子線治療などの医療分野で、問題の解決あるいは新たな技術の開発を行うためには、自然科学、特に物理学の基礎的理解が重要になることがあります。例えば、医療で利用されている放射性同位体(RI)の生成量を正確に見積もり、かつ不要なRIの量を最小限に押さえるためには、様々な核反応の確率(断面積)を系統的に調べる必要があります。ここでは特に、加速器を利用した荷電粒子入射反応に着目し、医療用RI生成断面積を実験的に測定しています。このように、基礎物理学の視点から、医療で必要となる知見を得るための研究を行い、社会に貢献できる人材を育成することを目的としています。
注目のキーワード:放射性同位体、原子核反応、放射化断面積
医学物理工学分野
放射線治療装置、動体追跡 医学物理学分野は、放射線治療において不可欠な要素でありながら、日本では諸外国と比較して未熟であると言わざるを得ない状況にあります。放射線治療先進国であるアメリカでは、放射線治療施設に必ず医学物理士が存在し、放射線治療品質管理や新しい放射線治療技術の開発に従事していますが、国内ではその土壌が十分には熟成されていません。中でも、放射線計測技術は、放射線治療のみならず、放射線診断分野、核医学分野にも共通の基盤技術であり、これらの専門教育は、医学物理学分野の研究者および放射線医療機器開発に携わる技術者にとって不可欠な要素です。北海道大学病院とも連携しながら、臨床で役立つ技術開発を目指した研究を通して、医療に貢献できる研究者および技術者を育成します。
注目のキーワード:線量測定、放射線治療計画装置、新アルゴリズム研究開発、品質管理の技術
臨床医学物理学分野
北海道大学病院、放射線治療装置
医療の臨床現場での問題点を、理工学の知識・技術を活用し、その解決策を見出すことが、次世代の新発見に繋がります。我々は、北海道大学病院における強度変調放射線治療や陽子線治療、動く臓器に対する動体追跡放射線治療といった最先端の放射線治療の現場において医学物理士として貢献しています。理工学の知識・経験を臨床現場に応用するとともに、臨床現場で生まれたアイデアを研究室内での実験やシミュレーションなどで確かめ、将来の放射線治療や医療機器の開発に繋げることを目指しています。この研究の過程を通し、医学物理士に必要な能力および社会に貢献できる人材を育成します。
注目のキーワード:臨床医学物理学、強度変調放射線治療、陽子線治療、動体追跡放射線治療、放射線治療計画
分子医理工学コース
画像医理工学講座
医用画像解析学分野
我妻 慧 准教授(保健科学研究院)
核医学は放射性同位元素の薬剤を人体に投与し、体内から放出される放射線を検査装置で検出することで、臓器や組織の機能や代謝の情報を画像および数値データとして取得し、診断や治療に活用する学問です。医用画像解析学分野では、核医学検査におけるsingle photon emission computed tomography(SPECT)とpositron emission tomography(PET)画像を対象に、画像再構成技術、画像処理技術、AIを活用した深層学習技術を駆使して、画質や診断能の向上を目的とした画像の作成、および定量性の向上を目的とした数値データの解析に関する研究を行っています。近年は認知症のバイオマーカーであるアミロイド・タウPETの標準化および最先端技術を駆使した半導体PET・SPECT装置の臨床応用に関する研究を推進しています。研究活動を通じて、核医学技術や画像処理・解析技術を習得した医療技術者および研究者の育成に取り組んでいます。
注目のキーワード:核医学、画質評価、深層学習、定量解析、認知症
応用分子画像科学分野
久下教授と水野助教 ―動物用PET・SPECT・CT装置
分子画像診断を実現するためには、分子プローブと呼ばれる“生体の分子情報を計測可能な信号に変換するための物質”が必要不可欠です。本分野では、分子画像診断に用いる新しい分子プローブの研究開発、すなわち、生体機能分子の探索、プローブのデザインから、プローブ合成技術及び合成装置の機器開発、さらには臨床へのトランスレーション研究を行い、画像診断の実用化を目指します。また、最近は分子画像診断技術を正確な治療に結びつけるための研究、すなわちプレシジョンメディシンやセラノスティックスに関する研究を積極的に行なっています。これらの研究開発を通して必要な知識・技術を体系的に修得し、医療・社会に貢献できる人材を育成することが本分野の目標です。
注目のキーワード:分子画像診断、分子プローブデザイン、分子プローブ合成技術、
セラノスティックス
生物指標画像科学分野
MRI撮像の様子
MRIを用いた非侵襲的定量画像
近年、分子標的治療法や陽子線などによるピンポイント照射を用いた個別化医療技術が注目を浴びています。MRIやCTなどの非侵襲的画像法は、これら治療法の選択や治療計画、治療効果予測・判定に幅広く応用されています。本分野では、最新MRIやCT技術を用いて、高い分解能と定量性を有する高精度な画像診断法、従来は指摘が困難であった微細な病変や早期生体変化を、非侵襲的に検出可能な撮像法、形態情報のみならず、細胞・分子レベルでの生体機能変化を反映できる非侵襲的な撮像法、非侵襲的で患者負担の少ない高精度で最先端の画像診断技術の開発、これら撮像法を用いた正常画像解剖に関する教育・研究を行います。
注目のキーワード:生物指標画像科学、高精度画像診断法の開発、CT、MRI
生物医理工学講座
分子腫瘍学分野
安田 元昭 特任准教授 (歯学研究院)
がん細胞のRNAおよびRNA結合タンパクの分子生物学的解析
発がんメカニズムを分子レベルで正しく理解することは、日本人の死亡原因第一位であるがんを撲滅するために必須で、新たながんの診断・治療法の開発にも不可欠です。近年、ゲノムプロジェクトの成果をもとに、non-coding RNAなどのRNAの解析が網羅的に進み、発がんとRNAとの様々な関連が明らかになりつつあります。
本分野では、RNAやウイルスなどを対象にした分子生物学的解析法を基盤として、新たな発がん機構の解明を行い、その知見を応用した新たながんの診断・治療法の開発について基礎から応用までの体系的な教育・研究を行います。
現在、本分野では、新たに発見した細胞がん化機構を応用し、がん細胞を特異的に溶解できる、腫瘍溶解ウイルスを開発しており、今後も、この研究をより発展させていきたいと考えています。
注目のキーワード:分子生物学的解析法、新たながんの診断・治療法の開発
分子・細胞動態計測分野
小野寺 康仁 准教授 (医学研究院)
放射線によるがん治療のための分子生物学的研究
放射線治療はがんの三大治療法として広く用いられていますが、がんはその原因となる分子機序が多種多様であり、放射線照射による腫瘍や周囲の正常組織への影響など、未だ解明されていない部分が多く残されています。
当分野では、放射線等の治療によるストレスやがん細胞自身が引き起こす環境ストレスによって起こる細胞死と、それをがん細胞が抑制する仕組み、その結果として生じる腫瘍の性質変化(浸潤・転移や治療耐性)を理解するために、細胞や組織の三次元立体構造や細胞外微小環境、細胞間の相互作用や細胞内代謝などを考慮しながら、生化学・分子生物学・細胞生物学・合成生物学の実験手法を用いて研究を行っています。
当分野での研究と教育を通じて、がん研究の知識と技術に習熟し、アカデミアや企業で活躍できるトップレベルの研究者・教育者の育成を目指します。
注目のキーワード:がん浸潤・転移、小胞輸送、細胞外微小環境、細胞間相互作用、
細胞内代謝、放射線生物学、合成生物学