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vol.48 生命分子機構

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
がん研究と創薬を加速する新しい手法の開発

北海道大学大学院医学院 免疫科学講座 生命分子機構

教授野田のだ 展生のぶお免疫科学講座

  • 1996年、東京大学薬学部卒
  • 1998年、東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了
  • 2001年、東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了
  • 2001年より北海道大学大学院薬学研究科でオートファジーのメカニズム研究を開始(博士研究員、助教、講師を歴任)
  • 2011年、公益財団法人微生物化学研究会微生物化学研究所に主席研究員として赴任し、研究室を主催
  • 2017年、同研究所・部長
  • 2022年に北海道大学遺伝子病制御研究所教授として赴任し、現在に至る

オートファジーと液-液相分離の関係性を解明

▲ 「実験装置や解析装置が充実し、学内外の協力体制も整っている研究環境は、自分がやりたいテーマを探求する上でとても魅力的だと思います」と語る野田教授

遺伝子病制御研究所に所属する生命分子機構教室は、2022年に設立された新しい教室です。教室を率いる野田展生教授は、長年、タンパク質の構造研究に携わり、さらにオートファジーのメカニズムに着目した細胞内現象の試験管内での再構成とメカニズム研究に取り組んでいます。
「オートファジーは真核細胞に保存された自己成分の分解システムで、細胞内分解工場であるリソソームにオートファゴソームを使って分解基質を輸送することで分解を行います。オートファジーはタンパク質や脂質、核酸などの生体分子、ミトコンドリアや小胞体などのオルガネラ、細胞内に侵入した細菌まで、あらゆるものを分解する能力を持っています。その万能な分解活性を用いて、オートファジーは生体の恒常性維持に働いており、その活性低下は神経変性疾患や老化などにつながると考えられています」と野田教授。

2016年、分子細胞生物学の大隅良典博士がノーベル生理学・医学賞を授与され、オートファジーの医学分野における重要性への認識が高まりました。オートファジーはがんや神経変性疾患をはじめ、糖尿病などの生活習慣病、心不全や感染症といったさまざまな疾患に関係し、さらに発生・分化、老化、免疫などにおいても重要な生理機能を持つことが近年の研究によって明らかになり、創薬や治療法にもつながる重要な研究領域として注目されています。
大隅博士の研究では、オートファジーを担う多くのATG遺伝子とそれがコードするAtgタンパク質が同定されています。大隅博士とともに研究に取り組んできた野田教授は、そのテーマを引き継ぎ、オートファジーの仕組みを分子レベルで理解するため、個々のAtgタンパク質の構造機能解析、精製タンパク質と人工膜を用いたオートファジーの諸過程の試験管内再構成、酵母および培養細胞を用いた細胞生物学的解析などの研究を進めています。

[1]オートファゴソームの形成モデル
細胞質に分散して局在していたAtgタンパク質が「液-液相分離」を起こすことで集合して「液滴」を形成し、そこでAtg9小胞を用いて初期隔離膜を新生し、さらに小胞体から脂質分子を選択的に取り込んでオートファゴソームを形成する。

野田教授は、公益財団法人微生物化学研究会微生物化学研究所に所属していた2019年、オートファジーで重要な働きをする脂質二重膜、オートファゴソームの形成プロセスを明らかにする研究成果を発表しました[1]。2020年には、東京工業大学や金沢大学などとの共同研究で、オートファジーの進行を担う構造体の実体が、Atgタンパク質が液-液相分離した液体状の会合体であることを発見。タンパク質の液-液相分離がオートファジーの制御に極めて重要な役割を担うことを世界に先駆けて見出しました(Nature 2020)[2]
「液-液相分離は生体分子の振舞いを理解する上で欠かせない新しい概念であり、さまざまな生命現象において重要な役割を担うことが分かってきています。当教室ではオートファジーに加えて、液-液相分離が関与する生命現象のメカニズム解明にも取り組んでいます」

最先端の研究環境で生命現象の謎の解明に取り組む

依然として謎の多いオートファジーのメカニズムを分子レベルで理解するため、本教室では(1)個々のAtgタンパク質の構造機能解析、(2)精製タンパク質と人工膜を用いたオートファジーの諸過程の試験管内再構成、(3)酵母および培養細胞を用いた細胞生物学的解析などの研究を進めています。
中でも、精製タンパク質と人工膜を用いたオートファジーの諸過程の試験管内再構成は、難度の高い研究テーマです。20種類以上のAtgタンパク質を用いて試験管の中でさまざまな膜を再構成するには高度な技術が必要で、さらに高速原子間力顕微鏡や凍結割断レプリカ電子顕微鏡などの特殊な装置で生成過程を観察しています。野田教授は「オートファジーの試験管内再構成研究や構造学的研究では、私たちは世界トップレベルの技術水準を保持しています」と語ります。

本教室では、高速原子間力顕微鏡をはじめ、細胞内のタンパク質や脂質膜の動態を観察可能な共焦点レーザー顕微鏡、細胞の膜構造や脂質組成を高分解能で可視化可能な凍結割断レプリカ電子顕微鏡、AlphaFold2によるタンパク質複合体構造予測が可能な高性能計算機など最先端の解析装置を活用し、画期的な研究成果をあげています。
「私たちは“見る”ことにこだわった研究を行っています。興味のある生命現象があったときに、そのメカニズムを明らかにしていくためには、現象の解明に適した研究手法を取り入れて研究を進めることが極めて重要です。当教室はさまざまな研究手法を高度な技術水準で駆使することが可能であり、さらに常に新しい手法を取り入れる体制を取っていることから、生命現象のメカニズム研究を楽しみたい人にはベストな環境が整っていると思います」

また、近年は筑波大学と共同で、タンパク質と睡眠との関係性を解明する研究も行っています。ショウジョウバエで同定された新規の睡眠誘因タンパク質「Nemuri(ねむり)」に関し、その分子機能の解明を目指しています。
「Nemuriは天然変性タンパク質という立体構造を持たないタンパク質であり、液-液相分離と関連があると考えられています。私たちは脳の中でタンパク質が液-液相分離を起こすことで睡眠が引き起こされるのではないかと仮説を立て、研究を進めているところです」

▲ 高速原子間力顕微鏡などを使った実験には、試料や目的に合わせた緻密な調整が必要であり、操作には専門的なスキルが求められる。「当教室には高度な技術を持ったスタッフが揃っており、的確で正確な解析を行うとともに、装置の扱いに関する技術も身につけることができます」と野田教授
▲ サンプルを凍結させ割断するための装置。国内では、本教室のほか筑波大学などわずか数台しか存在しない貴重な装置

(取材:2023年9月)

他大学・他研究機関と密接に連携する研究のプロ集団

▲ 自由な雰囲気で、それぞれの研究者が自身の興味を明らかにするために楽しみながら研究を行っている生命分子機構教室

本教室は、教授、准教授、特任講師、助教、特任助教が各1人、博士研究員3人、技術補助員3人、秘書1人で構成され、研究のプロ集団として活動しています。東京にある微生物化学研究所の構造生物学研究部と緊密な連携体制にあり、隔週でオンラインシステムを使った合同セミナーを行っています。微生物化学研究所ではクライオ電子顕微鏡や溶液NMR法など最先端の手法を用いたタンパク質構造解析や、微生物ライブラリーを用いたオートファジー制御剤開発などを行っており、それらの最新の研究成果を共有することができます。またオートファジーの先端研究を行っている4つの研究室が合同で、月に一回オンラインセミナーを行うとともに、年に一回合宿形式で勉強会を開催するなど、他研究室との交流も深められる体制になっています。