北海道大学 医学部医学科|大学院医学院|大学院医理工学院|大学院医学研究院
メニューを開く
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる

vol.41 神経内科学教室

  1. HOME
  2. 医学院
  3. Research Archives
  4. 専門医学系
  5. vol.41 神経内科学教室
北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
多彩な疾患に対応できる臨床と独創的な研究を展開

北海道大学大学院医学院 神経病態学講座 神経内科学教室

教授矢部やべ 一郎いちろう専門医学系

  • 1991年3月、北海道大学医学部医学科卒業
  • 2002年3月、北海道大学大学院修了 医学博士(北海道大学)
  • 2002年4月、北海道大学医学部附属病院神経内科 医員
  • 2003年10月、北海道大学大学院医学研究科脳科学専攻 神経病態学講座神経内科学分野 助手
  • 2008年10月、北海道大学大学院医学研究科脳科学専攻 神経病態学講座神経内科学分野 講師
  • 2006年11月、北海道大学大学院医学研究科脳科学専攻 神経病態学講座神経内科学分野 助教授
  • 2007年4月、北海道大学大学院医学研究科脳科学専攻 神経病態学講座神経内科学分野 准教授
  • 2008年4月、北海道大学大学院医学研究科 神経病態学講座神経内科学分野 准教授
  • 2011年7月、北海道大学病院神経内科 診療教授(兼任)
  • 2012年4月、北海道大学病院臨床遺伝子診療部 部長(兼任)〜現在
  • 2017年1月、Houston Methodist Research Institute (Houston, TX USA) Visiting Scientist/Professor
  • 2017年4月、北海道大学大学院医学研究院 神経病態学分野神経内科学教室 准教授
  • 2020年12月、北海道大学大学院医学研究院 神経病態学分野神経内科学教室 教授

遺伝学を用いて神経疾患の病態解明に取り組む

▲ 「専門的かつ高度な解析を通じて病気の原因や治療法につながる機序の解明を行うことは、大学院の使命であると考えています」と語る矢部教授

神経内科学教室は、1987年に脳神経外科から分離独立することに端を発し、現在は矢部一郎教授が第三代教授を務めています。
臨床では、神経領域と内科領域の両面を兼ね備えた診療科として、脳、脊髄、末梢神経、骨格筋に生じる、認知症や脳卒中、頭痛、てんかんなどの有病率の高い病気から希少疾患まで幅広く対応。北海道大学病院では2021年4月に標榜科名を「神経内科」から「脳神経内科」に変更し、「脳神経外科」や「精神科」とともに、脳神経領域の中心的役割を担う診療科としての位置付けを世間一般に向けてより明確にわかりやすくしました。

研究では遺伝学を用いた神経疾患の病態解明と治療法の確立に取り組んでいます。例えば、遺伝性の脊髄小脳変性症(SCA)のうちPRKCG遺伝子変異を原因とするSCA14を発見しました。また北海道大学から世界で初めて報告されたSCAであるSCA1に関しては、現在AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)」の支援をうけて『分子病態に基づく脊髄小脳失調症1型遺伝子治療の医師主導治験』として世界初の遺伝子治療による病態修飾療法の開発を目指して取り組んでいます。
さらに近年、パーキンソン症候群の一病型においてBassoon遺伝子(BSN)が関与していることも報告してきました。この報告後、BSN遺伝子変異により発症している可能性のある神経疾患が全国の施設から相次いで報告されています。現在はノックインマウス、細胞株を用いた研究および病理組織所見を含めた臨床データの蓄積等、複数の視点からさらなる病態解明を目指して研究を継続しています。

▲ 病理学的解析から遺伝学的解析、分子生物学的解析を行うことにより、病態の解明や診断方法、治療法の開発につながる成果が得られると期待されている。

「本教室では、脳などの神経細胞や筋組織を調べる<病理学的解析>、疾患に関連する遺伝子変異などを調べる<遺伝学的解析>、さらに遺伝子と病理学的な変化の関係性を解明する<分子生物学的解析>などを行い、病態の解明や治療法につながる研究を進めています」と矢部教授。遺伝子と疾患病態との関係にはまだ解明されていない部分が多く、矢部教授らの研究グループでは遺伝子治療などの病態修飾療法も視野に入れ、臨床に役立つ研究成果を上げることを目指しています。

また、神経内科学教室は北海道大学共同プロジェクト拠点の一つである「認知症研究拠点」の事務局となっており、矢部教授はその代表を務めています。
「超高齢化社会となっている日本では、認知症の推定患者数は約700万人とされ、中でも少子高齢化が先行する北海道においては、認知症への対応は必須の取り組みです。本プロジェクトは、北海道大学が中核となることで、これまで個別に進められてきた認知症研究を統合し、産学連携が促進されることが期待されています。」

臨床医にしかできないオンリーワンの研究

▲ 一人ひとりのキャリア形成やライフイベントに合わせながら神経内科学の幅広い研究領域を探索することができる神経内科学教室

神経内学教室では、スタッフは日本神経学会専門医・指導医や日本内科学会総合内科専門医・指導医に加え、人類遺伝学会臨床遺伝専門医・指導医、日本認知症学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医・指導医・日本てんかん学会専門医・指導医・日本臨床神経生理学会専門医など多数の専門医・指導医を取得しています。
教室の大学院生のほとんどは初期臨床研修終了後に大学院へ進学し、大学院で研究に従事しながら各種専門医を取得、並行して外来診療も行います。後期研修医7年目までの若手脳神経内科医が病棟診療を主に担当し、教室スタッフである病棟医長がそれを俯瞰し、指導しています。これまで医局員のほぼ全員が日本内科学会総合内科専門医と日本神経学会専門医を取得し、さらにサブスペシャリティーとしての専門医取得も可能な体制を構築しています。

「脳神経という組織は他の臓器に比べて未知の部分が多く、研究すべきことが極めて多い領域です。脳神経内科の専門医を目指して研修される人は、脳神経系疾患のメカニズムの解明に興味を持っている方が多く、もともと研究志向が強い人が多いと思います」と矢部教授。本教室のメンバーは、北海道大学病院をはじめ連携する地域医療機関などで、多種多様な神経疾患に対応し、患者さんやそのご家族とも信頼関係を築きます。また、専門性の高い診療を実践している北大病院脳神経内科には「北海道の脳神経内科の中心的施設」であることから、なかなか診断のつかない難しい病気や、治療法の確立されていない難病などの症例が数多く集まります。そこから新しい研究テーマが生まれ、臨床医にしか行えないオンリーワンの研究を行っています。また、学内外の複数の教室と共同研究を行ったり、研究成果を積極的に発信することで、全国の施設から遺伝子解析や自己抗体測定の依頼なども寄せられています。矢部教授は、「臨床の現場で得た経験から、解明すべき病気をきちんと研究することがこの教室の使命であり、病態を解析して新しい治療法につなげることが最終的な目標です」と語ります。

▲ 博士課程2年目の工藤彰彦さんは、「初期研修のとき、地方病院の神経内科で希少な難病の患者さんに寄り添った診療をしている先輩医師を見て、私もそんな医師になりたいと思いました。この教室ではすぐ上の先輩が後輩の指導にあたる『屋根瓦方式』を採用しているので、大学院1年目でも安心して研究に集中することができる環境です」と語ります。

(取材:2022年8月)

ライフイベントを重視した教育体制の構築

▲ 矢部教授の総回診では、実際の診療を通して、臨床経過と神経学的所見からどのような病態や疾患が考えられるかを討議する。研修医は自ら診療を行い多くの疾患を経験することで、臨床医としてのあり方や研究者としてのマインドが養われる。

「日本神経学会キャリア形成促進委員会」の委員長を務める矢部一郎教授の方針として、結婚・出産・育児といったライフイベントや各個人の事情や希望に配慮しつつ、それぞれが持続させることが可能な臨床と研究を行っています。また、教育を重視し、研修医レクチャーや教室説明会、研究雑談会、神経内科セミナーなども定期的に開催しています。北大病院脳神経内科で行われる総回診も好評で、矢部教授は「臨床神経学の古典から最先端に至るまでの知識に触れることができるので、ぜひ参加してみてください」と語ります。