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vol.27 小児科学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
他領域とのコラボが創出する無限の可能性

北海道大学大学院医学院 生殖・発達医学講座 小児科学教室

教授真部 淳専門医学系

  • 1985年、北海道大学医学部卒
  • 1985年、聖路加国際病院で卒後研修
  • 1989年、ローマ・カトリック大学小児腫瘍科で臨床研修(伊政府奨学生)
  • 1990年、米国メンフィスのSt. Jude小児病院血液腫瘍科で基礎研究(ポスドク・フェロー)
  • 1993年、聖路加国際病院小児科 医幹
  • 1997年、東京大学医科学研究所小児細胞移植科 助手
  • 2004年、聖路加国際病院小児科 医長
  • 2019年、北海道大学医学研究院 生殖・発達医学講座 小児科学教室 教授

私たちは子どもの病のすべてを扱うことができます

▲ 「陽子線治療センターなど最先端設備が整う北大にできない治療はありません。新しい病気が見つかる構造にもなっていて大変恵まれた環境です」と話す真部教授

1995年に日本初の遺伝子治療を成功させ、一躍社会の耳目を集めた小児科学教室。世界最前線の遺伝子治療で病を克服した二人の患児はすでに大学生になりました。1924年の開講以来、成人を対象とするあまたの領域の中で存在感を発揮してきた小児科学教室の舵取りを2019年4月から担っているのが、7代目の真部淳教授です。

大学病院で扱う子どもの難病は、いずれも症例数はわずかながら(小児がんは全国の年間の全がん患者数100万人に対し2000人)、疾病の種類[1]は広範で、その多くが先天性疾患で成人の病とは発症の原因や治療法が異なります。そうした子どもの病の「すべてを扱うことができるのが私たちの教室です」と真部教授は胸を張ります。

小児科学教室では、四十数名のスタッフや大学院生らが領域ごとに10のグループ[2]を組織し、高度な専門性を生かして自律的に診療にあたる傍ら、複数のグループが日本医療研究開発機構(AMED)の未診断疾患[3]イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases、IRUD)研究班で、親からではなく子ども本人から始まる遺伝病の臨床データ収集や診断、治療に関わる研究を推進するなど、多彩なテーマで研究に取り組んでいます。

▲ 高度な専門性を持ち、自律的に診療を行う小児科学教室のメンバー

「着任早々、グループが専有する実験機器を整理し、だれもが使える実験室にしました」こう語る真部教授は、総回診や病棟運営、若手医師の指導といった日常業務のほか、北海道で唯一の小児がん拠点病院の長として道内の関連病院を統括し、二つの医科大学やがんセンターなどに所属する若手医師のメーリングリストを作成。ウェブを介して患者さんの情報共有を行い、定期的にカンファレンスを開くなど、全道における小児がん医療の連携強化を図ってきました。

また、学内の他部門や他の教室との共同研究にも意欲的で「前任地では診療がメインだったので、異なる領域の先生方と研究ができる環境が何よりうれしい」と話します。「核医学の先生と新しい治療を開発し、薬学研究院の先生には小児がんの光免疫療法に関する共同研究を提案していますが、さらに遺伝子病制御研究所や内科系の教室とコラボすることで、新しい病気や診療研究上の発見も期待できます。生まれつき腎臓の病気があって様子を見ていたら10歳で膵臓にがんができたなど、領域の壁をいとも簡単に超えてしまうのが子どもの病気。ですから小児科はコラボが必要なんです」

▲ 総回診の様子。新型コロナ対策をしながら週に一度、小児科の看護師長や病棟医長、若手医師らと病棟を回る

さらに、真部教授が他領域とのコラボを重視する背景には、多くの患者さんの病態を長期間見守ってきた主治医としての思いもあります。

真部教授らは2019年9月、希少がんを発症しやすい小児期(概ね15歳未満)とAYA(思春期および若年成人、Adolescent and Young Adult)世代(15~39歳)のための「小児期・AYA世代がんセンター」を北大病院に開設し、治療期やその前後にさまざまなライフ・イベントをかかえる患者さんの長期診療や就学、就労支援などを各診療科の医師、看護師、社会福祉士らがチームで行う取り組みを始めました。

その一方で真部教授は、北海道における(小児期医療から成人期医療への橋渡しを行う)移行期医療の遅れを指摘します。「小児期の病を成人期まで持ち越す患者さんは、年齢が30代に達しても病棟や主治医は小児科のままという現状があります。他の診療科と連携して、そうした移行期の患者さんのフォローアップをスムーズに行うため、北大に移行期医療センターを設置するのが次の目標です」と先を見据えます。

有名雑誌のアクセプトが期待できる小児科学研究

小児がんを専門とする真部教授は、小児の白血病で最も多い急性リンパ性白血病(ALL)の患者のゲノムを解析して白血病発症の遺伝的背景を明らかにする一方、ライフワークとする骨髄異形成症候群(MDS)の研究では、ダウン症候群やファンコニ貧血などの先天性素因を有する子どもにMDSが起こる背景を探るために細胞遺伝学的検討を続けてきました。なお、これらの研究は日本全体の共同プロジェクトとして行われています。

また、全国から小児がんの病理データを中央に集約してDNA診断や臨床研究を行う日本小児がん研究グループ(Japan Children’s Cancer Group、JCCG)の創設メンバーであり「JCCGでは血液だけで一万例を超える臨床データを保管していますが、希少な症例を一カ所に集めることで国際共同研究が容易になり、研究費も獲得しやすくなります。実際、小児がんの治療は、世界全体でデータを共有し共同研究を推進したおかげで飛躍的に進歩しました。子どもの病気は希少だからこそ研究論文が有名雑誌にアクセプトされるチャンスも多く、発見も無限にあります」と話します。

▲ 多くの女性スタッフや大学院生が活躍する小児科学教室

日々情報の少ない子どもの病と対峙する若手医師のほとんどが大学院へ進学するという小児科学教室では、現在23人がさまざまな研究に取り組んでいます。

昨年は「内分泌グループの大学院生が、先天性疾患の一つで甲状腺から分泌されるホルモンが不足する甲状腺機能低下症(クレチン症)発症の原因のかなりの部分を解き明かしました。免疫グループの大学院生は、全国でも数例しかないデータを基に遺伝子解析を行い、発育が盛んな胎児に欠かせない葉酸が欠乏する理由の一つに、血縁関係のない遺伝子病(遺伝性葉酸吸収不全症)があることを発見。新生児グループのスタッフは、新生児の先天性肺胞蛋白症には、免疫不全を合併するタイプのものがあることを突き止めました」。

他部局とのコラボでは「循環器グループの大学院生が、ミトコンドリアを標的としたナノカプセルの開発を進める薬学研究院の教室と共同で、ナノカプセルを用いて抗がん剤の心臓への悪影響を抑える方法を探っています」。

真部教授はこうしたユニークな研究に果敢に挑む若手の情熱を称えるとともに「臨床を一生懸命やって、自らの領域で班会議の長を担うなど日本を牽引するような医師になってほしい。病院で重用される付加価値を付けるのも大事です。臨床遺伝や感染症コントロールなどの専門医の資格を得ることもおすすめしますよ」と声援を送ります。

(取材:2020年8月)

[1] ^ 児童福祉法に基づく小児慢性特定疾病は、762の疾病が16の対象疾患群(1.悪性新生物2.慢性腎疾患3.慢性呼吸器疾患4.慢性心疾患5.内分泌疾患6.膠原病7.糖尿病8.先天性代謝異常9.血液疾患10.免疫疾患11.神経・筋疾患12.慢性消化器疾患13.染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群14.皮膚疾患15.骨系統疾患16.脈管系疾患)に分類されており、北海道では約4000人の患者がいる。

[2] ^ 免疫感染血液・腫瘍神経腎臓内分泌・糖尿病循環器新生児遺伝染色体代謝消化器 の10グループ

[3] ^ 未診断疾患 : 症状はあるものの一般の医療機関では診断がつかず、治療法が見つからない疾患

教授は小児科病棟のヴィルトゥオーソ

▲ ピアノを演奏する真部教授(2019年7月 フラテホールにて)

「学生時代は本を読み友人を作り趣味を持て」をモットーとする真部教授はピアノの名手です。作曲を手がけ、学生時代は北大交響楽団でクラリネットパートを担当し、現在も学生とのアンサンブルに興じる小児科界隈のヴィルトゥオーソです。小児病棟のプレイルームでは、琴演奏家(高校時代の朋友で真部教授が楽曲提供)がつま弾く和の調べやクラリネットによる「きよしこの夜」の響きが、子どもたちの感性を刺激しています。