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vol.26 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
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北海道大学大学院医学院 感覚器病学講座 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室

教授本間 明宏専門医学系

  • 1989年、北海道大学医学部医学科 卒業
  • 1989年、北海道大学医学部耳鼻咽喉科学講座 入局
  • 1990年、函館中央病院耳鼻咽喉科
  • 1991年、日本医科大学救命救急センター、聖路加国際病院麻酔科、癌研究会附属病院頭頸科で研修
  • 1992年、市立釧路総合病院耳鼻咽喉科
  • 1995年、癌研究会附属病院頭頸科
  • 1999年、北海道大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 助手
  • 2007年、北海道大学病院耳鼻咽喉科 講師
  • 2010年、北海道大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 准教授
  • 2017年、北海道大学大学院医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室 教授
  • 2019年、北海道大学病院長補佐(併任)

超選択的動注療法の標準治療化を目指して

▲ 初代・香宗我部寿教授(1882-1941)の肖像が彫られたブロンズ製のレリーフを背に取材を受ける本間教授。レリーフの裏面にはドイツ語で「私たちの教授、雪の降る日に亡くなられた」と書かれてある。

「手術が好きな人は手術を究めることができるし、内科的なことが好きという人はそのような道もあります。私たちはめまいもがんの治療も扱いますが、全く異なるような病気も同じ臓器・近い臓器に発生するので関連性があります。そうした病気を一つの科で扱い、いろいろなものが混ざっているところが耳鼻咽喉科の良いところです」と話すのは、1922(大正11)年開設の耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室(以下、耳鼻咽喉科)を2017年から率いる本間明宏教授です。

耳鼻咽喉科では、頭頸部腫瘍、耳科学、鼻科学、音声、前庭(めまい)の五つのグループが、脳と眼球以外の首から上の領域に発生するがんのほかアレルギー、めまい、難聴、中耳炎、音声など多種多様な疾病の診療と基礎、臨床両面の研究を行っています。

▲ 専門領域の垣根を越えて協力体制で診療を行う耳鼻咽喉科のメンバー

5代目・犬山征夫教授、6代目・福田諭教授の後を継ぎ、頭頸部がんを専門とする7代目の本間教授は、外頸動脈から枝分かれした顎動脈など、がん細胞に栄養を運ぶ血管に選択的にカテーテルを入れて抗がん薬を投与する「超選択的動注療法」という治療法を、主に鼻に発生する上顎洞がんで確立した第一人者です。抗がん薬の投与と同時に抗がん薬を中和する薬を静脈から投与し副作用を抑えることで、治療間隔を縮めることに成功。さらに放射線治療との併用で治療成績は飛躍的に向上しました(図1)。

「海外で超選択的動注療法による上顎洞がんの治療成績に関する発表を行うと、ものすごく反響があります。以前から、他のがんに先駆けて頭頸部がんでは、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた集学的治療(三者併用治療)が行われてきましたが、それでもなお、手術ができないほどがんが進行した方や、機能や美容・整容面のリスクにより手術を受け入れられない方の期待に応える治療法はありませんでした。切らずに治せる超選択的動注療法の導入と放射線治療の併用で、患者さんの心身の負担を大きく減らすことができました」

▲ 図1. 頭頸部がんの超選択的抗がん剤動注、放射線併用療法の仕組み

現在、超選択的動注療法が標準治療と認められることを目指し、本間教授がリーダーとなって全国の大学病院やがんセンターと多施設共同の臨床試験を行うほか、毎年、治療法に関する講習会を開いています。20年前、超選択的動注療法の開発者であるアメリカの医師との手紙のやりとりや直接訪ねることで、治療法のノウハウを学んだという本間教授のもとには、今や本家のアメリカやインドからさまざまな専門分野の医師が、治療のアドバイスを求めてやってきます。

「臓器の機能や整容的なことにも配慮しながら行う頭頸部がんの治療は難しい面もありますが、北海道大学は各診療科のレベルが高く、そのおかげで理想的な治療を患者さんに提供できています」と語る本間教授。耳鼻咽喉科では「以前から形成外科、脳神経外科、消化器外科などと合同手術を行い、放射線治療科とは50年前から毎週カンファレンスを開いてきました。腫瘍内科とも10年以上前から関係が密になり、理想的な頭頸部がんのチーム医療を実践できています」。

教室はすべての教室員が幸福になるために存在します

腫瘍内科と共同で行う唾液腺がんの新たな薬物療法*HPV(ヒトパピローマウイルス)関連中咽頭がんの研究*などの基礎研究が全国的に注目される教室では、大学院生もまた、さまざまなテーマで基礎研究に挑んでいます。頭頸部腫瘍グループの浜田誠二郎医師(博士課程2年)は、細胞をあらゆる方向に増殖させることができる三次元的培養などの手法を用いて口腔扁平上皮がんの細胞を観察し、悪性化の仕組みの解明に努めています。また、鼻科学グループの大学院生は、近年増加中もいまだ不明な点が多く難治とされる好酸球性副鼻腔炎の病態解明のため、鼻腔粘膜上皮のバリア機能を調べる研究を進めています。

▲ 口腔扁平上皮がんのがん細胞で発現が加速するリガンド(細胞外物質)の働きを調べ、がん悪性化のメカニズムを研究する浜田医師。蛍光顕微鏡で鮮やかに着色された細胞内の分子の動きを観察する(細胞生理学教室にて)
▲ 「繊細で細かい作業が好きなので耳鼻咽喉科の治療にやりがいを感じています。ミクロの世界で起きている現象を臨床の目線で確かめ、今後の診療に生かしたい」と語る浜田医師

「大学院生は研究に専念できるよう十分な時間が確保され、それぞれが希望する診療グループに関連した研究を行うことができます。教室内にとどまることなく、学内や国内外の基礎系の教室に出向いて実験に励み、研究成果を国際学会や英文誌に発表しています。大学院の期間を通じて、どこかで論文の読み方から論理的な思考、効果的なプレゼンテーションの方法などをみっちりと行えば、他の領域のことも明るくなるし、医学・医療の基本部分を理解できるようになります。さまざまな経験を積んだことが、その後の臨床の仕事にも大きく役立ちます」

喉頭がんの治療で喉頭摘出術を受けたアメリカのイツァーク・ブルック医師が、同じ境遇におかれた患者さんの生活の質向上のために自身の体験を綴った「喉摘者のためのガイドブック 」の日本語版(全108頁)が2019年に完成し、ウェブで公開されています。ブルック医師の呼びかけに応えて著書の監訳を行った本間教授は「以前に読んだブルック医師の闘病記に大変感銘を受け、心に残っていたので、日本の患者さんにも紹介したかった」と語ります。

ホスピタリティあふれる本間教授の教室は、いつも和やかでアットホームな雰囲気が漂っています。「教室員は専門分野がそれぞれ違っても、日常の診療は協力し合いながら行っています。研究や専門領域を究めるための国内留学や海外留学もできるだけ希望を叶えるようにしています。『教室はすべての教室員が幸福になるために存在する』という理念のもと、彼らの夢の実現を支援する存在でいられるよういつも心がけています」

(取材:2019年12月)

唾液腺がんの新たな薬物療法*・・・唾液腺のがん細胞の増殖に関わるタンパク質HER2(ヒト上皮細胞増殖因子受容体2)を標的とした分子標的薬による薬物療法

HPV(ヒトパピローマウイルス)関連中咽頭がんの研究*・・・世界で激増中のHPV感染を原因とする中咽頭がんの治療法などに関する研究

40年の歴史を誇る「えびとり」

▲ 2018年7月のえびとりの様子(北海道石狩市石狩浜にて)

医局員や学生が海水浴の名所である石狩浜まで出かけて、網でエビをすくって捕獲。その足で教室まで戻り、留守番組が準備したバーベキュー・スペースの隣で取ってきたエビを唐揚げにして皆でいただく、という一風変わった伝統行事があります。以前は、寒くなければエビは取れないという迷信にならい、5月の寒空の下、研修医が冷たい波に翻弄されながら行う苦行でしたが、その後の研究で、気温が高くなっても捕獲できることが明らかとなり、近年は7月に皆で楽しく海に入っています。