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vol.47 呼吸器外科学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
最先端の診断・治療システムで北海道の肺がん医療をリード

北海道大学大学院医学院 外科学講座 呼吸器外科学教室

教授加藤かとう  達哉たつや外科系

  • 1997年、北海道大学医学部卒業、第二外科に入局 外科医としての研鑽を開始
  • 2002年、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターで大学院生として肺がん研究に携わる
  • 2006年、北海道で一番肺がん手術症例の多い札幌南三条病院でほぼ連日手術に没頭
  • 2012年、北海道大学病院循環器・呼吸器外科特任助教となる
  • 2013年、カナダ・トロント大学胸部外科でリサーチフェローとして基礎研究に従事
  • 2016年、カナダ・トロント大学で肺移植クリニカルフェローとして肺移植医療に従事
  • 2017年、北海道大学病院循環器・呼吸器外科、臨床研修センター講師として臨床・研究・教育に従事
  • 2022年、北海道大学病院呼吸器外科初代教授として赴任し、現在に至る

腫瘍の発見・治療でトップレベルの研究成果

呼吸器外科学教室は、2022年3月、加藤達哉教授のもと旧循環器・呼吸器外科から独立して新設された教室です。旧循環器・呼吸器外科は、1924年の外科学第二講座の開設当初から呼吸器グループとしてほぼ独立した診療体制を築いてきた伝統があり、その歴史は100年に及びます。臨床面においては、ロボット手術・胸腔鏡手術を中心とした低侵襲手術と、治療の難しい進行肺がんに対する拡大手術を診療・臨床研究の2本柱として行っています。

現在取り組んでいる主な研究テーマは3つ。ひとつ目は、「胸部悪性腫瘍に対する近赤外線免疫療法(NIR-PIT)の有効性の検討」です。近赤外光線免疫療法(Near Infrared Photoimmunotherapy: NIR-PIT)は、抗体に水溶性の光物質であるIRDye 700Dx (IR700)を接合し、近赤外光線を照射することで腫瘍細胞を破壊する治療法です。本研究では、がん特異的抗原のみを選択的に認識するモノクローナル抗体による「抗体-IR700結合体」を用いて胸部悪性腫瘍に対する近赤外光線免疫療法を確立することを目指しています[1]
本研究では、博士課程1年の山崎洋さんが、2022年4月より大学院薬学研究院の生体分析科学研究室(小川美香子教授)に出向し、近赤外光線を用いたさまざまな肺がんの遺伝子を標的とした研究に取り組んでいます。「分子イメージング分野のトップランナーである小川先生の研究室で学べることは、とても大きな経験になっています」と山崎さん。

▲ [1] 近赤外線照射による腫瘍細胞の破壊
▲ 「呼吸器外科の臨床医として9年間勤務した経験があるのですが、臨床の現場においても基礎研究を通じて理論的な考察をベースとした診断・治療が重要だと改めて感じています」と語る山崎さん

二つ目の研究テーマは「新規腫瘍位置同定法に関する基礎および臨床研究」です。胸腔鏡を用いた内視鏡手術では、肺の表面からは奥深くにある腫瘍は実際に目で見ることはできません。そこで肺腫瘍の血管新生と血流を利用し腫瘍へインドシアニングリーン(ICG)を集積させ、ICG蛍光スペクトル解析装置を用いて腫瘍の同定を行います。これまでの研究で、肉眼では捉えられない蛍光波長を検出することができ、より肺表面から深い位置にある腫瘍の位置も同定できる可能性を示しました[2]
博士課程4年の野村俊介さんは、加藤教授とともに本研究に携わっており、手術中に微小な肺がんの部位を同定する方法の開発に取り組んでいます。野村さんは、「現在もなお増加の一途をたどる肺がん患者さんに対して、少しでも予後・治療成績の向上に結び付くような研究をしたいと思っています」と語ります。

▲ [2] ICG疑似腫瘍を用いたスペクトルの確認
▲ 次世代シーケンサー(Next Generation Sequencing: NGS)を用いて、がんに特異なタンパク質の発現と、遺伝子変異との関係性について研究している野村さん。「先生方は優しく、質問のしやすい雰囲気があります。やりたい事や目標を応援してくれ、困った時には必ず誰かが助けてくれる環境だと思います」

道内での肺移植手術を目指したクラウドファンディング

▲ 「肺移植を希望する道内の患者さんの経済的・地理的な負担を解消できるようになることは教室の使命と考えています」と語る加藤教授

三つ目のテーマは、「肺移植時虚血再灌流障害に関する新規免疫抑制法の開発」です。
肺移植は末期呼吸不全に対する根治的治療法ですが、移植肺に対する慢性拒絶は、長期生存を妨げる最大の要因であり、有効な治療法は確立されていません。肺移植後の安定した長期成績のためには、慢性拒絶を誘発しない新たな免疫抑制法の確立が重要な戦略となります。Primary Graft Dysfunction (PGD)は、移植後早期の移植肺における強い炎症反応や虚血再灌流障害を含めた自然免疫応答により引き起こされる病態であり、移植後の短期成績に重大な影響を与えるのみならず、その後の獲得免疫応答にも強く影響し、慢性拒絶をも引き起こすことが知られています。本研究は、PGDに対する新規治療法として、細胞移植時の抗炎症効果、細胞保護効果が確認されている新規Erythropoietin analogue(ARA 290: cibinetide)を用いた新規免疫抑制法を肺移植へ応用し、臨床応用へつなげることを目的としています。

また、本教室では、2023年3月1日、北海道での肺移植実現を目指したクラウドファンディングをスタートさせました。現在、北海道には肺移植手術が行える認定施設がなく、肺移植を希望する患者は、道外での移植手術を受けるしか方法がありませんが、移植施設への搬送や費用面などさまざまな課題があります。
クラウドファンディングはスタートから約2ヶ月で目標額の700万円をはるかに超える1,700万円以上の寄付総額を獲得。患者やその家族、医療関係者などから多くの寄付が集まりました。寄せられた資金は、施設認定に向けた準備や、人材育成に使われる予定で、既存認定施設や海外への留学支援も進めていく計画です。
「移植手術には、医師以外にも看護師や技師など非常に多くのスタッフが関わり、それぞれに高いスキルが求められます。施設認定については申請の最終段階にあり、5年後、10年後の肺移植医療を担っていく人材の育成が急務なのです」と加藤教授。

(取材:2023年8月)

教室一丸となって北海道の肺がん治療の発展に取り組む

本教室のスタッフは教授を含め5名、医員が4名で、自由にディスカッションできる雰囲気があります。良いものはどんどん取り入れ、チームとして採用し、全体のレベルを上げていく。それが教室のモットーです。10年一貫教育システムとして、大学院生が実験に集中できる研究期間を確保するシステム作りも進めています。

本教室では、北海道の肺がん死亡率が全国でワースト1であるという汚名を返上しようと、当科と道内の関連21施設が一丸となってプロジェクトを進め、肺がん患者の予後や手術のデータを道内で共有するデータベース作りを開始。また、北海道における肺がん治療の拠点病院として、症状が出る前に早く見つけるための検診活動の推進を北海道の地域保健課がん対策係と協力して行っています。さらに企業と協力して尿中マイクロRNAを用いた次世代のがん検査としての有効性の検証研究を開始したところです。

▲ 北海道での肺移植医療の実現を目指し、一丸となって研究に取り組む呼吸器外科学教室
▲ 北海道大学呼吸器外科関連施設を結ぶ統合データベース構築事業