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vol.46 乳腺外科学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
乳がんの診断・治療の発展を支える高度な研究活動

北海道大学大学院医学院 外科学講座 乳腺外科学教室

教授高橋たかはし 將人まさと外科系

  • 1989年3月、旭川医科大学医学部卒業
  • 1998年3月、北海道大学大学院医学研究科博士課程修了
  • 1989年4月、北海道大学病院 研修医
  • 1990年6月、北海道大学複数の関連病院にて研修
  • 1998年4月、千葉県がんセンターリサーチレジデント
  • 2002年4月、北海道大学病院第1外科 医員
  • 2004年10月、北海道大学病院第1外科 助教
  • 2010年4月、北海道がんセンター乳腺外科 医長
  • 2013年4月、北海道がんセンター統括診療 部長
  • 2017年8月、北海道がんセンター 副院長
  • 2022年1月、北海道大学病院乳腺外科 教授
  • 2022年4月、北海道大学大学院医学院外科学講座 乳腺外科学教室 教授兼任

乳がん診療と基礎・臨床での研究に取り組む

▲ 「乳腺外科との出会いは偶然」と語る高橋教授。「知れば知るほど奥が深く、多様な研究テーマが広がっていることに魅力を感じました。若い人たちにもやりがいのある分野だと思います」

北海道大学病院の乳腺外科は北海道で唯一の乳がん診療を専門とした診療科であり、乳腺外科学教室は、若手乳腺選考医の育成と臨床・基礎両面での画期的な研究を担う組織です。教室を率いる高橋將人教授は2022年1月より本教室の教授に就任。前任地の北海道がんセンターでは、約12年間に渡り乳腺外科部門を主宰し診療に携わってきました。
「乳がんは患者数が非常に多く、現在も増加し続けているにも関わらず、乳腺外科を専門として診療する医師が不足しているのが現状です。医学部での乳腺外科の授業数が少ないなどの理由もあり、学問としての体系化も遅れていました。また、乳がん診療は手術と薬物療法のみならず、遺伝子検査・診断、就労支援、アピアランスケア、AYA世代のサポート等多くのやりがいのある分野が含まれており、乳腺外科専門医の育成が強く求められています」

本教室では、現在、(1)乳がん治療薬開発のための臨床試験、(2)乳がん予後予測のバイオマーカー探索、(3)乳がん発生および悪性形質獲得に関する基礎研究の3つを主要テーマとした研究を行っています。(1)と(2)については臨床の現場が近いことから、細胞のサンプル摂取から分子レベルの基礎研究分野までトランスレーショナルな研究を行っています。
中でも、HER2(がん細胞の増殖に関係するタンパク質)に関する研究で多大な成果をあげています。乳がんは、薬物療法が効果的とされている疾患で、中でもHER2陽性乳がんの治療にはトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)という薬剤が有名です。さらに、2019年に開発・商品化されたトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)は、乳がんの治療法を大きく変える薬剤として注目されました。

「HER2陽性乳がんは、乳がん全体の15〜20%を占めると言われていますが、胃がんや肺がんなど他のがんにも少数ながらHER2陽性が見られ、これらの治療にもトラスツズマブ デルクステカンが有効であることがわかってきました。乳腺外科学におけるHER2研究が他のがんの治療にも広がりつつあることは、大きな貢献のひとつだと思います」と高橋教授。

また、2023年9月には、BostonGene(本社:米国ボストン)と北海道大学病院との間で、HER2陽性乳がん患者を対象とした革新的診断技術の開発を推進することで合意。BostonGeneが有する遺伝子発現解析パイプラインを応用し、乳がん組織での免疫微小環境の特性や治療反応性を規定する遺伝子的バイオマーカーなどを明らかにしていきます。本共同研究は、北海道大学病院腫瘍内科・がん遺伝子診断部の木下一郎教授とともに高橋教授が主導して行っていく予定です[1]

論理的思考と客観的性を養う大学院での学び

▲ 北海道での乳がん診療に研究と臨床の両面から貢献すると同時に、後に続く乳腺専門医の指導・育成に力を注ぐ乳腺外科教室

本教室では、北大病院をはじめ道内外の病院で乳がん治療に携わってきた医師たちが、それぞれの目標を持って研究活動を続けています。高橋教授は、大学院での学びについて次のように語ります。
「大学院生の研究テーマは、臨床で問題となっている課題を解決するためにはどうしたらいいのかという視点から選んでもらっています。論文を書くというのは、データに基づく解析や自分の行っている研究に対する客観的な評価を受けることです。そのようなトレーニングを通じて論理的な思考を養うことができます。また、研究者としての視点を身につけることで、現在世の中に出ている論文やデータがどれほど信頼のおけるものなのか、あるいは自分が持っているデータはどの辺に位置するものなのかを知ることもできます。研究においても臨床においても、自分の立っている場所を客観的に把握できるようになるのです」

博士課程4年の押野智博さんは、人工知能(深層学習モデル、決定木モデルなど)を使った、乳がんの画像診断の研究に取り組んでいます。
「北大病院の乳腺外科で臨床の経験を積む過程で、臨床が基礎医学や最先端の技術に支えられて成り立っていることを実感しました。それまでにデータをまとめてきた自施設での症例を活かしながら、診療や治療法の発展に貢献すべく、乳腺外科教室に入学しました」と押野さん。人工知能以外にも腫瘍病理学や整形外科などさまざまな分野の部署と共同研究を行い、幅広く奥深い研究を展開しています。
「人工知能を利用することで、より普遍的で予測能も高い診断を臨床の現場で行うことが目的です。人工知能診断により、診断する医師の負担軽減や、高い診断能による治療方針の改善、それによる治療成績の向上などが実現につなげたいと思っています」

▲「人工知能の研究は医師が自力で行うことは非常に困難です。高橋教授を通じたいろんな部署との共同研究で、違う分野の方々とコミュニケーションしながら多様な研究を行うことができます」と語る押野さん

(取材:2023年8月)

自由でオープンな雰囲気のなか、楽しく成長できる教室

乳腺外科教室は、オンとオフを自ら管理する自主的な場です。教室員は当番日以外は自由な時間を取ることができ、勉強するもよし、マラソンするもよし、ゴルフするもよし。みんなで楽しく飲む宴会(参加は強制ではありません)や果物パーティー、鰻パーティーなど楽しいイベントもたくさんあります。 また、北海道の乳腺診療医はとても仲が良く、医局や大学の垣根を超えて交流をしています。セミナーなどを通じて情報交換する機会も豊富にあり、多くを学ぶことができます。

▲ 2023年9月北海道外科関連学会機構合同学術集会で5年生、6年生に学会発表をしていただきました。その後3大学の乳腺外科スタッフと乳腺の発表をしてくれた学生とで合同懇親会を開催しました。