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vol.24 消化器外科学教室Ⅰ

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
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北海道大学大学院医学院 外科学講座 消化器外科学教室Ⅰ

教授武冨 紹信外科系

  • 1990年、九州大学医学部卒業
  • 1990年、外科研修医(九州大学病院・福岡市立こども病院・広島赤十字原爆病院)
  • 1992年、九州大学生体防御医学研究所生化学部門 大学院生
  • 1996年、国立九州がんセンター消化器外科
  • 1998年、米国ユタ大学ハンツマン癌研究所 博士号取得後研究員
  • 2001年、中津市立中津市民病院診療部 外科医長
  • 2003年、九州大学病院 肝臓・脾臓・門脈・肝臓移植外科 講師
  • 2011年~現在、北海道大学大学院 消化器外科学教室Ⅰ 教授

Bedside to Benchが研究のコンセプト

インタビューに答える武冨教授

肝臓、大腸、肝移植、小児など各消化器外科の診療、研究をラグビーさながら「ONE TEAM」のスピリットでスクラムを組んで推進してきたのが、武冨紹信教授率いる消化器外科学教室Ⅰです。自身も大学時代はラグビー部に所属し、ディフェンスの要であるフルバックを守っていたという武冨教授。曰く「外科は一人ではできません。さまざまな体格の選手がそれぞれの役割を持ってチームを結成するラグビー同様、私たちの教室でも皆がさまざまな経験を共有し、励まし合って成長してきました」。

2021年に開講100年を迎える消化器外科学教室Ⅰは、1919(大正8)年に開学した北海道帝国大学(1947年から北海道大学)医学部とほぼ歴史を共にする伝統ある教室の一つです。7代目となる武冨教授が就任した2011年には、①信頼性の高い手術や高度進行症例、難治症例に対する集学的治療の実践②疾病メカニズムを分子レベルで解明し、治療へ展開する「Bedside to Bench」のコンセプトで行う基礎研究や高度な臨床的エビデンスの創生③やる気とやりがいを持ち、医学の発展に貢献する外科医の育成――と、診療、研究、教育それぞれの目標を掲げ、実践してきました。

教職員集合写真
▲ 教室員の一人一人がかけがえのないプレーヤー

現在、400人を超える同門の医師らが活躍する道内30超の関連病院と連携して、最新のエビデンスに基づく医療や先端研究を推し進めています。消化器外科Ⅰが行う手術症例は増加傾向にあり、肝がん手術や肝移植手術は道内随一であるとともに、大腸がん手術についても、従来の開腹手術と比べて患者さんの体への負担が少ない内視鏡手術の技術認定医の育成に尽力した結果、現在では教授就任時の約2倍と症例数を伸ばしています。

臨床技術の向上に努める一方で武冨教授は、研究面でも臨床に直結したBedside to Bench(臨床から研究へ)のコンセプトを貫いてきました。「臨床の疑問や課題を研究テーマに取り込んで、治療成績の向上や新しい治療法の開発につなげることも私たちの務めです。そのため消化器外科Ⅰでは、Tissue bank(=ヒト組織の研究用試料バンク)を設置して研究体制を整えてきました。そこでは研究に欠かせない肝がんや大腸がんなどの貴重な手術後の組織片を大切に保管し、他の臨床グループや全国の共同研究施設と共有して臨床情報の蓄積・管理やより深い分子病理学的研究に生かしています」

自ら動いて教えを請い、自ら学んで研究成果を出さなければなりません

▲ 図1. ラット肝温虚血再灌流障害モデルにおけるイメージング質量分析(Imaging Mass Spectrometry)を用いた脂質解析 a)虚血終了時のラット肝HE染色 b~d)同部位で変動する脂質のimaging

肝細胞がんの分子機構の解明を主とする武冨教授の研究の流れを汲んで、現在教室では大学院生が臨床応用を前提とした先端的研究を行っています。例えば、がんの増殖に関与する脂質代謝酵素の働きを遮断する阻害剤を応用し、がんによって弱められた免疫機能を活性化させ肝細胞がんの再発を防ぐ免疫治療に生かす研究に取り組んでいます。また、がん細胞の近くに形成される微小環境に存在するがんの成長をうながす特殊な繊維芽細胞に着目し、これを利用した分子標的治療の可能性を追求しています。さらに、世界の先進国の中でも圧倒的にドナーの提供が少ないとされる日本の脳死肝移植に関し、せっかくいただいた肝臓を無駄にしたくないという思いから、臓器移植時に発生する虚血再灌流障害の分子メカニズムの解明(図1)や臓器の機能を活性化させる保存液の研究開発も行っています。

▲ 細胞内のカルシウム濃度測定の準備をする大学院生。「肝細胞がん発症のメカニズムに関する研究を行っています」

クッシング症候群の発見者で脳神経外科のパイオニアと称されるアメリカの外科医ハーベイ・ウィリアムス・クッシング(1869-1939)の教えに根ざした「目指せ、アカデミック・サージョン」が教室の合い言葉です、と語る武冨教授。その心は「臨床医である私たちは一方でリサーチャーであり、リサーチの精神を周囲に植え付けていかなければならない。もちろん外科医としての手術手技もきちんとこなし、人格においても研究においても優れた人であってほしい、というのが教室の大方針です」。

教室では、肝臓、移植、下部消化管、小児の各臨床グループの外科医らに加え、研究専従の教員2人と学術研究員3人が研究部門を組織し、大学院生の研究、実験の相談に乗っています。こうした環境で卒後6、7年目の医師が3年間、興味のある分野で自由にのびのびと研究を行えるのが消化器外科Ⅰの魅力です。とはいえ「自由ほど厳しいものはありません」と武冨教授は助言します。「刻々と症状が変化していく患者さんを追いかけ追いついて手術や検査を行う臨床では、医師は自分の意思とは関係なく動かざるを得ない。一方で大学院生は自由な反面、自ら動いて教えを請い、自ら学んで研究成果を出さなければなりません」

▲ 臓器移植後の免疫寛容誘導の効果を調べるため、モニターを囲んでマウスの皮膚切片の炎症細胞の浸潤度合を確認

ONE TEAMの一員としての役割を担いつつ、自らの足で立つこともまた、武冨教授が期待する外科医のスピリットです。大学院進学に加えて海外留学も推奨する教授は、毎年数名の若手医師を米国やオランダなどの大学へ送り出しています。「留学先でさまざまな国の留学生と交わって彼らの国のことを知ってほしい。異なる文化に身を置いて苦労して自分を見つめ直すことも大切です」。2017年には南極越冬隊員の健康管理を担う医師として若手の一人が極地へ赴きました。1年半の任務を終えて帰還し、このほど臨床を再開したこの医師にも「南極という極限的な環境で過ごした貴重な経験を皆に話してほしい」と伝えています。

(取材:2019年11月)

大学院生主催の「Morning Seminar」で他学部に学ぶ

▲ Morning Seminarの様子(2019年9月11日 米国Cleveland Clinic 橋元宏治講師=右)

北海道大学の他学部、他教室や国内外の大学から中堅の研究者を招いてレクチャーをしていただくMorning Seminarを年3、4回開催しています。武冨教授の代で始めた催しもすでに20回を重ね、大学院生が自らの研究領域に近い理学部、工学部、獣医学部、遺伝子制御研究所などの教員に直接アプローチをして、早朝の教室で研究への思いを熱く語っていただきました。武冨教授は「一つのキャンパスにあらゆる研究分野が集まっているところは他大学にはない北海道大学の魅力の一つで、恵まれた環境を生かさない手はありません。セミナーの開催が共同研究の契機となるのも大学院生には大きな利点です」。