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vol.20 麻酔・周術期医学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
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北海道大学大学院医学院 侵襲制御医学講座 麻酔・周術期医学教室

教授森本 裕二外科系

学歴
  • 1986年、北海道大学医学部医学科 卒業
  • 1993年、同大学大学院医学研究科 修了
  • 1994年、Duke大学麻酔科在外研究員(Warner DSのラボで脳保護の研究)
職歴
  • 1993年、北海道大学医学部附属病院手術部 助手
  • 1994年、同大学医学部附属病院麻酔科 助手
  • 1998年、同大学医学部附属病院集中治療部 助手
  • 2000年、同大学医学部附属病院麻酔科 講師
  • 2003年、同大学大学院医学研究科 侵襲制御医学講座侵襲制御医学分野(現麻酔・周術期医学教室)教授 現在に至る

侵襲制御医学が教室の目指すべき方向性です

北海道で唯一の脳死臓器移植施設であり、高度な手術が日々繰り返される北海道大学病院では、約40人の麻酔科医が24時間患者さんに付き添い、周術期(術前、術中、術後)の麻酔管理はもとより、手術後の集中治療をも担う全身管理のスペシャリストとして活躍しています。これら麻酔科医が所属する麻酔・周術期医学教室(北大病院麻酔科)を2003年から率いるのが3代目の森本裕二教授です。

森本教授は「麻酔や手術、痛みや重症患者の臓器不全や外傷、敗血症などから生体を守るための侵襲制御医学*こそ、私たちの教室の目指すべき方向性」と明言します。侵襲制御をコンセプトとして、臨床麻酔を中心に、痛みを和らげるペインクリニックや緩和医療、集中治療、救急にも習熟した優れた麻酔科医の育成に努めています。(*末尾「侵襲制御医学」参照)

森本教授は医学科生時代、麻酔のみならず救急や集中治療にも精通した先代の劔物修教授に侵襲制御医学を学び、「市中病院の救急医療部の研修医として心肺停止患者に接し、その大多数が心臓の拍動は戻っても意識は回復せず植物状態に陥っていたことから、脳蘇生に興味を持ち、その分野の研究を世界的にリードする麻酔科を専攻しました」。

北大病院麻酔科入局後は、心停止時に起きる脳障害の研究に着手し、1995年からは麻酔薬の脳保護効果に関する研究、2005年からは、発達期(6歳未満)の子供の脳に与える麻酔薬の神経毒性と、麻酔や手術後の高齢者の認知機能障害に関する研究を行ってきました。2017年には、10年間におよぶ研究の集大成として、理工系、医学系の出版物を手がけるスプリンガー社の依頼により、麻酔と神経毒性に関する教科書「Anesthesia and Neurotoxicity」を上梓しています。

若手医師の大学院進学については「何をやりたいというそれぞれの思いを尊重し、サポートしています。進学時期は自由ですが、研究を続けるためには、ある程度の臨床経験を積んで『臨床の疑問を解き明かしたい』という強いモチベーションが必要です」と話します。さらに「彼らが選択した多岐に亘る研究課題を遂行するには、他の基礎系・社会医学系の教室、北大病院治療科のほか、学内の他部門との連携も欠かせません」。

▲ 朝に行われる勉強会と症例カンファレンスの様子
▲ 森本教授と教員らが、若手麻酔科医と問題症例を検討

一人一人の夢を叶えるテーラーメードの教育を行っています

▲ 「基礎と臨床の両立が研究成果につながった」と話す相川医師

神経薬理学教室(吉岡充弘教授)のサポートで基礎研究に挑んだのが、大学院博士課程4年の相川勝洋先生*です。麻酔薬「ケタミン」の抗うつ効果に関する研究に着手し、幼若期にストレスを与えることで成長期にうつ病を発症しやすくしたモデル動物にケタミンを投与し、抗うつ効果の検証を行ってきました。研究成果を医学雑誌に投稿中の今、大学院生活を振り返り「臨床と基礎の両立に励んだ4年間でしたが、思い通りの結果を出せたことに感謝しています。後輩にもこうした充実感を味わってほしい」と未来にバトンをつなぎます。
*2019年4月から北海道大学大学院医学研究院助教)

▲ 教室オリジナルの顕微鏡装置でマウスの脳の神経細胞を観察

基礎研究ではこのほか、敗血症などに起因する全身の炎症が脳に伝わり、脳の炎症が認知機能障害を引き起こす仕組みの解明や治療法の開発を、電気生理学的アプローチから探索するとともに、末梢の炎症が脳に伝わる機序そのものの解明を、北海道大学遺伝子制御研究所・分子神経免疫学分野(村上正晃教授)とも連携して行っています。

「術後認知機能障害の成因とその予防・治療」の研究に励んでいるのが、中国からの留学生、王玮(ワン・ウェイ)先生(博士課程1年)です。「先輩医師からさまざまな実験手法を教わり、自らの課題も見えてきました。内田先生は根気よくていねいに指導をしてくれます。毎日が楽しく研究は順調です」と研究の手応えを語ります。王先生の指導を行う教室スタッフの内田洋介医師は、米国カリフォルニア大学で2年間「手術侵襲(手術による身体的ダメージ)による認知機能障害」の研究に打ち込み、帰国後も教室ラボのさらなる発展を目指し、自らの研究と大学院生のサポートに情熱を注いでいます。

侵襲制御に関するこれらの基礎研究を行う一方で、臨床研究も活発に行っています。その代表格が、循環器・呼吸器外科から臨床データの提供を受けて行う「小児心臓手術における脳内循環変動の検討」です。経頭蓋ドプラ超音波検査(TCD)による脳血流の速度と、脳酸素飽和度を同時に測定することにより、手術中の脳組織の血液循環の変動を明らかにし、予後との関係や臨床的モニタリングの有用性を探っています。

「教室に所属する若手医師には、将来的に麻酔を専門にしたい人もいれば、集中治療をやりたい人、痛みの緩和医療やペインクリニックを志向する人もいます。教室の門をくぐった一人一人がどのような目標を持ち、どのように伸びていくかを見守り、それぞれの夢が叶うようにテーラーメードの教育をすることが私たちの仕事です」と森本教授。

「この分野は頭の先から足までの全身が臨床、研究の対象であり、他の基礎系、臨床系の分野とも密接な関係にあります。若手医師にとって将来進むべき道の選択肢の多いことが大きな魅力です」と麻酔科医の潜在力の高さをアピールします。

(取材:2018年12月)

侵襲制御医学

侵襲制御医学とは、イラストのようにさまざまな侵襲が、生体に生じた時の、全身ならびに各臓器の病態生理(Pathophysiology)、ならびに治療・臓器保護 (Organ protection)を考える学問です。