北海道大学 医学部医学科|大学院医学院|大学院医理工学院|大学院医学研究院
メニューを開く
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる

vol.18腎泌尿器外科学教室

  1. HOME
  2. 医学院
  3. Research Archives
  4. 外科系
  5. vol.18腎泌尿器外科学教室
北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
vol18メイン画像

北海道大学大学院医学院 外科学講座 腎泌尿器外科学教室

教授篠原 信雄外科系

  • 1984年、北海道大学医学部医学科卒業
  • 1984~1985年、北海道大学医学部附属病院泌尿器科講座・研修医
  • 1985~1987年、苫小牧市立総合病院泌尿器科
  • 1987~1989年、稚内市立病院泌尿器科
  • 1989~1990年、アメリカ合衆国 Michigan大学泌尿器科Visiting fellow
  • 1990年、北海道大学医学部病院泌尿器科 医員
  • 1992年、同助手
  • 1999年、同講師
  • 2005年、北海道大学大学院腎泌尿器外科 准教授
  • 2014年、同教授

サイエンス、アート、ヒューマニティが臨床医には不可欠です

医学生らが患者と対面して実地研修を行う「臨床実習=ベッドサイド・ラーニング」を提唱するなど、現在の医学教育の基盤を築いたウィリアム・オスラー博士(1849-1919)は、臨床医学とは「科学に基礎を置くアート(医術)である」と説いています。

2014年10月から腎泌尿器外科学教室、北海道大学病院泌尿器科を牽引する篠原信雄教授は、この偉大な先達の教えを目標とし、「サイエンス、アート、ヒューマニティの三つの要素が医師には不可欠」と訴えます。教授自ら米ミシガン大学で、膀胱がんに薬剤抵抗性をもたらす遺伝子の仕組みの解明に取り組み、基礎研究に魅了された経験から、「科学を理解した泌尿器科医は広い視野で臨床と向き合えます。ある一定期間、研究に没頭する時間を持つことが医師としての成長に大きくつながります」と信条を語ります。

篠原教授の指導のもと、教室では、若手が医師としてあるべき人間性や倫理観を養っています。女性医師・研究者の受け入れにも積極的で、「泌尿器の領域が女性に忌避されるようであっては教室が成り立ちません。現在は手術もロボット化しており、力技より手先の器用さが求められます。女性医師の活躍する場面はたくさんあります」と呼びかけます。

診療や研究は、泌尿器がん、排尿障害・女性泌尿器、腎移植、小児泌尿器の主に四つの専門医療グループに分かれて行っています。ベテランスタッフがグループ長を務め、定期的に腹腔鏡やロボット支援手術(ダ・ビンチ手術)など、最新の外科的手技習得のトレーニングを実践。「ここで経験を積んだ医師が道内各地の関連病院に赴き、5~10年かけて地方都市でも最高水準の医療が受けられる環境を整えてきました。今では若手は地方のほうが、ダ・ビンチ手術を含め多くの手術に携わる機会に恵まれており、先輩の指導のもとでしっかりとした手技が身につく仕組みが機能しています」

基礎、臨床各研究領域の新規開拓が自慢です

▲ 泌尿器がんの腫瘍血管内皮細胞の研究で2018年にPhDを取得。「研究することで思考の幅が広がった」と話す若手医師

腎泌尿器外科学教室では、医学部卒業後6年目をめどに大学院進学を勧めています。医師以外の入学希望者も受け入れており、各グループ長が中心となって指導にあたっています。大学院生は、自由に臨床、基礎の各領域で研究課題をリサーチし、率先して国内外の学会や医学雑誌で研究発表を行っています。

基礎研究では、「泌尿器がんにおける腫瘍血管内皮細胞の研究」に重点を置いています。2017年は大学院生が、尿路上皮がんの腫瘍血管内で抗がん剤を排出するABC1という薬剤トランスポーターの発現の増加を発見。日本がん転移学会学術集会総会で優秀ポスター賞に選ばれました。抗がん剤の効果を妨げているものの正体が明らかになれば、治療法の開発にもつながると、さらなる研究成果が期待されています。

▲ 病院での仕事と尿失禁研究を両立させる臨床検査技師の大学院生(左)。職種を越えたコミュニケーションも教室の魅力

臨床研究では、研究領域の新規開拓が教室の自慢です。スタッフが手がける「腎泌尿器外科教育の研究」もその一つで、「若手医師はラパロなどの手技をどう学べば良いか」といったテーマで、海外研究者と共同で論文を執筆。医学雑誌への投稿を続けています。こうしたスタッフの存在は、本教室における教育サポート体制の充実の証しであるとともに「新たな研究領域を広げたという意味でも大きな価値がある」と教授は讃えます。

また、発想のユニークさゆえ篠原教授が「世界の最先端」と期待をかけるのが、「人工知能を用いた前立腺MRIのがん自動局在診断プログラムの開発」です。大学院生自ら画像解析アルゴリズムを開発し、画期的な診断プログラムを構築。2018年、日本泌尿器科学会総会のポスター部門で総会賞を獲得しました。

排尿障害・女性泌尿器グループでは、尿失禁の病態解明や新薬の探索のほか、理学療法士・臨床検査技師でもある博士、修士の大学院生が、尿失禁を予防する「骨盤底筋体操」の研究を行っています。骨盤を支える筋肉を鍛える体操の手法や効果などの科学的裏付けを取ろうと、仕事と研究を両立させています。

いずれも優れた研究ながら「とかく研究はうまくいかないものなので、うまくいかなかった場合は、その理由を考える経験を積んでほしい。研究を通じて医師以外の人の考えを知り、コミュニケーションを図る。常に患者さんの側に立ち、状態が悪化した時には、なぜそうなったかを理解したうえで、治す、解決するPOS(問題志向型システム)にその経験を生かしてほしい」と篠原教授。研究の果実は、論文のみにあらずということを強調します。

(取材:2018年9月)

(参考文献)
  • ブリス, マイケル(2012)『ウィリアム・オスラー-ある臨床医の生涯』梶龍兒監訳, 三枝小夜子訳, メディカル・サイエンス・インターナショナル.
  • 日野原重明・仁木久恵訳(1983-2003)『平成の心-オスラー博士講演集』医学書院.
  • 荒井保男(2006)『生きる糧となる医の名言』中央公論新社.

米国泌尿器科医も絶賛する小児尿道形成術

▲ 北海道大学病院泌尿器科を訪れたChristina Ching医師と篠原教授

泌尿器科の中でも最難関の手術の一つとされる小児尿道下裂に対する修復手術。1994年に小柳知彦2代目教授(現:北海道大学名誉教授)が開発した手術法「OUPF Ⅳ(一期的尿道形成術)」は、今なお世界中で追試が行われています。この技術を学ぼうと、2018年4月、米国の小児泌尿器科医、Christina Ching先生が教室を訪れました。手術に立ち会うなどしながら2週間滞在。帰国後、米泌尿器学会誌「AUAニュース」で、「北大病院泌尿器科の技術レベルは非常に高い。皆さんもぜひ行くべき」と宣伝してくれました。