北海道大学大学院医学研究科 内科学講座 腫瘍内科学分野
教授秋田 弘俊内科系※2022年3月退職
- 1981年、北海道大学医学部卒業
- 1987年、北海道大学大学院医学研究科修了(医学博士)
- 1987年、米国国立癌研究所NCI-Navy Medical Oncology部門に留学(Fogarty Visiting Fellow)
- 1990年より北海道大学医学部附属病院助手(第一内科)、同講師を経て、2001年北海道大学大学院医学研究科教授(腫瘍内科学分野)に就任、現在に至る
がんのゲノム解析技術をベースに
画期的な診断・治療の研究に取り組んでいます
日本人の2人に1人がかかり、今や国民病とも言える「がん」。腫瘍内科学は、がん治療の中でも特に薬物療法や集学的治療を中心とする専門分野です。秋田弘俊教授をリーダーとする腫瘍内科学分野は、2001年に教室として誕生し、北海道大学病院では2004年に診療科として腫瘍内科ができました。
主な研究テーマは(1)HER2標的薬トラスツズマブの非小細胞肺がんと唾液腺がんにおける適応拡大を目指した臨床試験、(2)非小細胞肺がんにおけるHER2ドライバー遺伝子変異の意義に関する研究、(3)次世代シークエンス解析を含むゲノム解析による原発不明がんの個別化治療の開発に関する研究、(4)上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬耐性に関する研究、(5)がん薬物療法の効果予測に有用な分子イメージングの開発に関する研究などで、いずれも学内外の臓器別診療科、基礎臨床医学系研究室と共同で最先端の研究を行っています。
近年のがん研究は、DNA解読技術の飛躍的な進歩に伴い、最新の次世代シークエンサーによって、がんのゲノムを網羅的に解読することが可能になり、がんの病態を細胞内の遺伝子変異との対応でとらえられるようになっています。教室では臨床試験をはじめとする研究的治療を行い、新しいがん医療の開発に注力。悪性腫瘍の原因や悪性度に関わる主要な遺伝子・分子異常が次々と明らかにされ、これらの情報をがんの診断・治療・層別化に応用する臨床研究を積極的に行うことで、次世代のがん医療、特に個別化治療の開発を推進しています。中でも(1)のHER2標的薬トラスツズマブの非小細胞肺がんと唾液腺がんにおける適応拡大を目指した臨床試験では多くの成果を上げ、数年後の実用化が期待されています。
「トラスツズマブは現在、乳がんや胃がんでしか保険適用されていません。今回の臨床試験により肺がんや唾液腺がんへの効果が証明され、適用拡大が認められれば、多くの患者さんが保険診療で治療を受けることができるようになります。このように、私たちの臨床研究は患者さんの利益に直結する非常に意義のある研究テーマです」
がんのメカニズムが明らかになることで、原発不明がんの治療にも大きな成果が表れています。原発不明がんとは転移が認められているのに原発巣が見つからない特殊ながんで、全国のがん患者総数の数%程度が原発不明がんと言われています。
「ゲノム解析をすることで、肺がんや大腸がん、乳がんなどがんの種類ごとの特徴をつかむことができ、原発臓器の特定につながります。原発臓器を特徴づけるドライバー遺伝子(がんの発生や進展において直接的に重要な役割を果たす遺伝子)の変化が分かれば、それをターゲットとする薬物治療も可能になります」
がん遺伝子のゲノム解析は、がんの診断や治療に新しいアプローチをもたらす画期的な技術であると期待されています。腫瘍内科学分野では他の分野と密接な連携を図り、基礎研究と臨床研究のキャッチボールをしながら研究を進めています。
自由で活発なカンファレンスを通じて
世界に通用する腫瘍内科医へ成長
腫瘍内科学分野では、(1)「難治がんの克服をはじめとする腫瘍学の発展への貢献」、(2)「将来を担う腫瘍内科医の育成」、(3)「診療の充実」を3本柱の目標として掲げており、研究・教育・診療に力を入れています。この3つは密接な関係にあり、臨床の現場で感じた疑問や問題意識を、毎週開くカンファレンスなどを通じて話し合い研究活動に活かします。研究成果はプログレスレポートとして発表し分野全体で共有。そこで培われたさまざまな知見が臨床の現場にフィードバックされます。
「こうした活動により一人ひとりのモチベーションを高め、リサーチマインドと臨床のマインドを醸成することを目指しています。単なる情報交換ではなく、自由闊達な意見交換の場としてのカンファランスは重要な役割を果たしています」
現在、分野に所属しているスタッフは総勢15名。アットホームな雰囲気の中で日々活発なディスカッションが行われています。
また、医学研究科は2012年から開始した文部科学省の「がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン」に道内の他大学とともに選定されており、腫瘍内科学分野はその中の博士課程「先端がん薬物療法プログラム」を担当。高度な研究能力を有し、がんの地域医療を理解できるがん薬物療法研究者の養成に力を注いでいます。
「がんは、ほぼすべての診療科に関わる病気であり、本分野では臓器横断的に高度で幅広い治療を行いながら、がん薬物療法と集学的治療に精通し、各種腫瘍を総合的に診ることのできる腫瘍内科医(がん薬物療法専門医)の育成に取り組んでいます。私たちの専門はがん薬物療法ですが、それに加え外科手術や放射線治療などと連携しながら集学的治療を行うことでより高度な治療が可能になると考えています」
(取材:2016年2月)
世界トップレベルの研究者が集まる学術集会を主催
2015年7月、腫瘍内科学分野では秋田教授を会長として第13回日本臨床腫瘍学会学術集会を札幌市で主催しました。「難治がんへの挑戦‐医学、医療、社会のコラボレーション‐」をテーマに、グローバルな最新情報の提供と共有をはじめとする数々の取り組みを行いましたが、主なキーワードはゲノム解析に基づく新薬開発・個別化治療、免疫療法、がん薬物療法専門医など。海外からの参加者400名(そのうち海外招聘講演者41名)を含め、5000人を超える多数の参加者を集め、同学会史上最大規模の学術集会となりました。