北海道大学大学院医学院 社会医学講座 法医学教室
教授的場 光太郎社会医学系
- 1999年、北海道旭川東高等学校卒業
- 2005年、北海道大学医学部医学科卒業(医師免許取得)
- 2005年、北海道大学大学院医学研究科入学
- 2007年、北海道大学大学院医学研究院 法医学教室 助教
- 2007年、死体解剖資格取得
- 2010年、日本法医学会法医認定医
- 2011年、博士(医学)取得
- 2018年、北海道大学大学院医学研究院 法医学教室 講師
- 2023年、北海道大学大学院医学研究院 法医学教室 教授
- 2023年、日本法医学会法医指導医
死因の解明で地域の安全や公衆衛生に貢献
大正12(1923)年5月26日、山上熊郎先生が初代教授に着任して本教室の歴史が始まりました。それから上野正吉先生、斎藤銀次郎先生、錫谷徹先生、高取健彦先生、寺沢浩一先生のもとで教室は発展し、100年の時を経て、2023年3月1日に第7代教授に的場光太郎先生が就任されました。初代から第4代までは他大学出身の教授でしたが、第5代からは高取建彦先生(第5代)、寺沢浩一先生(第6代)、そして的場光太郎先生(第7代)と、北海道大学出身の教授が続いています。現在の教室メンバーは教授、講師、助教、技術職員が各1名、学術研究員3名、医療技術補佐員1名、技術補佐員1名、事務員5名、死因究明教育研究センターの特任助教の医師と歯科医が各1名の計16名で日々の業務や研究を行っています。
法医学分野は全国的に人材不足が問題となっており、北海道内でも法医学専攻の医師は5名のみで、的場教授が大学院在籍中の20年前の7名から減少の一途を辿っています。近年、死者数の増加により異状死の件数も急増し、北海道では年間9,000件の異状死が発生しています。さらに、平成26年(2014年)に政府の方針により死因究明の推進が閣議決定されたことで異状死の解剖率が増加した影響で司法解剖数は3~4倍に増えており、法医学専攻の医師の負担が激増している状況です。本教室でも2017年に司法解剖数が全国で一番多くなってから現在まで、その数は増減があるものの年間400件近い解剖を実施。「今後は高齢化や非婚率の増加の影響により異状死がさらに増加していくとされており、これから益々法医学専攻の医師の活躍が望まれることになり、その育成は喫緊の課題となっています」
法医学における研究は、近年の分析機器の進歩に対応して、マルチスライスCT装置による死後画像診断や質量分析装置を用いた迅速で高感度の薬毒物検査などが中心となっており、本教室でもそれら装置を導入して研究を行っています。また、それら機器類を用いて法医学だけでなく北大病院の院内の死後画像検査や医療安全、救急医療、サージカルトレーニングなど多方面の専門分野・診療科の業務や研究にも協力しており、幅広く活用して北海道大学の発展に貢献しています。
法医学の実務の面では前述の通り、近年法医解剖数が増加しており、死体検案数も令和4(2022)年に過去最多の1,370件を筆頭に毎年1,000件を超える状況です。「特に新型コロナウィルス感染症の影響は大きく、その流行から増加の速度がより一層増した感があります」
本教室では異状死体として発見された新型コロナウィルス感染症(約100例)や劇症型溶血性連鎖球菌感染症(3例)の関連死についてCT検査や生化学検査、抗原・PCR検査、解剖により診断を行い、関係の保健所等の機関への報告を通して地域の公衆衛生への貢献を推進しています。
最新機器による死因究明関連の研究
本教室では死因究明に関わる薬毒物の検査について、最新鋭の手法である高速液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)やガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)を導入しています。LC-MSは向精神薬や覚醒剤などの薬毒物を高極性から低極性の幅広い物質について検出を行い、必要に応じて定量も行っています。装置は様々な検体や用途に対応するために3機種設置してあり、血液や尿などの液体から臓器などの組織を直接分析できるシステムが構築されています。GC-MSはLC-MSでは分析できないごく低極性の物質の分析を行うことができます。特に揮発性物質の分析ではその特性を発揮し、アルコール類の分析や有毒ガスの検出はお手の物です。そして近年導入されたEDXは、金属類の検査・分析に特化した装置。「事例は多くないものの、この30年の間に一般の薬毒物検査では分析・測定されない有毒金属を用いた殺人事件(未遂も含む)が発生しており、それらに対応すべく設置しました」
本教室ではこれら化学分析装置を用いてこれまで、硫化水素中毒の診断に関わるチオ硫酸塩の分析・測定法の開発や応用、死後経過時間と短鎖脂肪酸の関係についての研究を行ってきました。また、薬毒物分析の手法は法医学分野の研究のみならず、学内の内科学や薬理学、救急医療の分野でも能力を発揮し、共同研究によって多くの成果を得ています。
もう一つの柱である死後画像診断においては、占有の16列マルチスライスCT装置と画像解析用のワークステーションを設置しており、外表所見では確認できない死因の鑑定に大いに活躍しています。死後画像の研究では、死後経過時間が長い腐敗事例における脳の出血を評価するCT撮影法の開発や死後CTを用いた肺所見に関する研究をはじめ、各種客観的評価のための解析法の開発を行っています。特に的場教授のライフワークとも呼べる睡眠時無呼吸症候群を背景とする突然死に関しては、口腔・咽頭領域での画像を用いた評価や頭蓋骨内部表面の形状などに注目して、死後画像を活用しています。
(取材:2024年9月)
多種多様のメンバーで実務と研究に邁進
本教室には色々なバックグラウンドのスタッフがいます。法医学一筋の教授を始め、病理専門医(2名)、歯科医師、獣医師(3名)、臨床検査技師がおり、そして生物工学を専攻した技術員や理学部出身の有機化学者など、一見法医学とは無縁のように思える人材まで在籍しています。皆、バックグラウンドや専門は違っていても志は一つ、死因の真相解明に突き進んでいます。「異なる専門の知識から新たな発想や技術が生まれる楽しさ、その喜びに私たちは日々浸りながら業務や研究に臨んでいます」と的場教授は語ります。