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vol.40 病原微生物学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
ウイルスのメカニズムを解明し、治療や感染制御に貢献

北海道大学大学院医学院 微生物学免疫学講座 病原微生物学教室

教授福原ふくはら 崇介たかすけ病理系

  • 2004年3月、九州大学医学部医学科卒業
  • 2004年4月、九州大学病院 臨床研修医
  • 2005年5月、佐賀県立病院好生館 臨床研修医
  • 2010年4月、大阪大学微生物病研究所分子ウイルス分野 特任研究員
  • 2010年3月、九州大学大学院医学研究科修了
  • 2010年4月、日本学術振興会 特別研究員 PD
  • 2011年7月、大阪大学微生物病研究所分子ウイルス分野 助教
  • 2017年12月、大阪大学微生物病研究所分子ウイルス分野 准教授
  • 2020年5月、北海道大学大学院医学研究院微生物学免疫学分野病原微生物学教室 教授

ウイルスを主役とした最新研究に取り組む

▲ 「ウイルスの研究室が医学部に属していることで、臨床に役立つ研究の可能性も広がると考えています」と語る福原教授

病原微生物学教室は、2020年5月にスタートした新しい研究室です。ジカウイルスなどの新興再興ウイルスをはじめ、B型・C型肝炎に代表される肝炎ウイルス、病態に関与する新規ウイルスの探索などの研究を行っており、近年は新型コロナウイルス(Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus-2:SARS-CoV-2)の研究にも取り組んでいます。

「栄養などの条件が整えば増えることができる細菌とは異なり、細胞の中でしか増殖できない病原体であるウイルスは、増殖や変異などの面で解明されていないことが多く、とても興味深い存在です。ウイルスに関する研究は、ウイルスに感染した生体の免疫機能を研究する免疫学と、ウイルスそのものを研究するウイルス学がありますが、本教室ではウイルスを主役とし、感染や伝搬性、増殖、変異などのメカニズムを解明する研究を行っています」と語るのは福原崇介教授。医学部の他の研究室や人獣共通感染症国際共同研究所などとの共同研究も数多く手がけ、前述のウイルス以外にも、新興ウイルスの出現にいち早く対応し、刻一刻と変化するウイルスに合わせたスピーディかつ的確な研究で、治療や感染制御に貢献することを目指しています。

▲ 従来のリバースジェネティクスに比べて、PCR反応をベースにすることで(CPER:Circular Polymerase Extension Reaction)作業を格段に単純化することに成功。本技術を使うことにより、GFPやLuciferaseを搭載したレポーターウイルスや変異を持つ組換えウイルスを容易に作出できるようになった(※https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/210413_pr4.pdfより抜粋)

ウイルス研究では、ウイルスの遺伝子配列情報をもとに、リバースジェネティクス(逆遺伝学的にゲノムから組換えウイルスを人工的に作製する技術)という手法を使って研究するのが一般的です。しかし、コロナウイルスなどの人工合成には複雑かつ高度な遺伝子操作技術と数カ月もの期間が必要であり、技術に習熟した限られた研究者しかコロナウイルスを人工合成できないという問題がありました。
福原教授は、2021年、大阪大学微生物病研究所との共同研究でCircular Polymerase Extension Reaction (CPER)法を用いることにより、わずか2週間で新型コロナウイルスを人工合成する新しい技術を確立し、報告しました。この技術により従来数カ月を必要としたウイルスの合成が大幅に短縮され、新型コロナウイルスの研究開発が加速するとともに、世界中で出現するさまざまな変異を持つコロナウイルスに対しても迅速に解析をすることが可能になります。
「CPER法は、デングウイルスなどが含まれるフラビウイルスを研究する技術を新型コロナウイルスに展開したものです。これまで蓄積してきた研究成果を世の中のニーズに合わせていち早く転用していくことも、本教室の研究スタンスです。さらに、この研究成果は論文などを通じて公開しており、世界各国の研究機関で利用されています。材料さえ提供すれば、どこでも簡便かつ素早くウイルスが作ることができるため、コロナウイルスに限らず未知の新興ウイルスなどの研究にも役立つと期待されています」

臨床の現場とは異なる環境で新たな経験を積む

▲ さまざまな分野の研究者が集う病原微生物学教室は、若い研究者たちの可能性を広げる環境づくりを目指している

本教室は福原教授が40代、それ以外のスタッフが30代と、全体的に若い雰囲気があります。医学部出身者以外にも理学、獣医学、工学などさまざまなバッググラウンドを持ったメンバーが集まり、それぞれの専門分野の知識・技術を生かしつつ、多面的なアプローチでウイルスの研究を行っています。 「中には、医学部を卒業後10年ほど医師として勤務してから大学院へ進学する人もいます。研究者としてのスタートは少し遅いかもしれませんが、臨床の現場で日々経験を積み重ねているからこそ生まれてくるリサーチクエスチョンもあり、臨床との関わりを意識しながら研究が行えることは大きなメリットのひとつだと思います」

福原教授自身も、医学部を卒業後、約7年間の臨床医を経験した後に研究の道に進んでいます。 「30歳を過ぎるまで研究の経験がほとんどない状態で大学院へ進学しました。周囲には研究一筋で歩んできた人も多く、考え方や文化の違いに戸惑いましたが、その一方で自分にしかできない研究もあることに気づきました。教室を主宰する立場になり、研究を追求する人と臨床を知っている人が両方いることの重要性を改めて感じています」

博士課程1年の齋藤智也さんは、消化器外科の医師として8年勤務し、2022年に大学院へ進学しました。 「現在は、B型肝炎の新規治療薬の研究をしています。臨床とは全く違うことをやっているので、最初は不安もありましたが、医学以外の分野の研究者と一緒に過ごすことでたくさんの刺激を得ています。また、北海道大学病院の消化器外科と共同でB型肝炎と肝臓がんとの関係についても研究しています。どちらも臨床に直結するテーマであり、ウイルスとの関連性を改めて意識するようになりました」と齋藤さん。

▲ ウイルスに感染した細胞の状態を調べる作業を行う齋藤さん
▲ 斎藤さんは大学院での過ごし方について「生活のリズムが比較的安定しているので、ライフワークバランスが確保しやすいというメリットがありますね」と語ります。

福原教授は「日本は、これまでウイルス感染症の危険性に対する認識が海外ほど高くなかったのですが、新型コロナウイルス感染症が世界的に広がった影響で多くの人がウイルスの存在を意識するようになりました。人間を対象とした医学研究とは異なり、ウイルス研究は、他の研究室に比べてハードルが高いと感じる人もいるかもしれませんが、もしウイルス研究に興味があるなら、ぜひ見学に来てほしいですね。一緒に研究室を作っていきましょう」と期待を寄せています。

(取材:2022年08月)

研究に集中しやすく快適な環境を自分たちの手で

▲ 教授とスタッフが力を合わせて改装を施した研究室は開放的で自由な雰囲気

本教室では、研究室の内装を自分たちでリノベーションし、明るく開放的な雰囲気を作っています。カウンターにはスタッフが自由に使えるパソコンが用意され、その中の1台には高度な解析ソフトが搭載してあり、必要な時にいつでも利用することができます。談話コーナーもあり、メンバー同士の情報交換やコミュニケーションに役立っています。