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vol.34 免疫学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
免疫のメカニズムを探究し、20年後、30年後の医学を変える研究を

北海道大学大学院医学院 微生物学免疫学講座 免疫学教室

教授小林 弘一病理系

  • 1991年、千葉大学医学部卒
  • 1991〜1994年、千葉大学医学部第二内科
  • 1992〜1994年、総合病院国保旭中央病院内科
  • 1994〜1998年、千葉大学医学部大学院 博士
  • 1998〜2003年、イェール大学 ポスドクフェロー
  • 2003〜2004年、イェール大学 Associate Research Scientist
  • 2004〜2011年、ダナ・ファーバー癌研究所/ハーバード大学 Assistant Professor
  • 2011〜2012年、ダナ・ファーバー癌研究所/ハーバード大学 Associate Professor
  • 2012年〜、テキサスA&M大学 Health Science Center 教授(現兼任)
  • 2017年〜、北海道大学大学院医学研究院免疫学教室 教授

アメリカでの研究をベースにMHC遺伝子の発現要因を解明

▲ 「免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を予測できれば、患者さんに一番効果のある治療法や薬剤を適切に選択できるようになる」と語る小林教授

免疫学教室は北海道帝国大学医学部の設立時に細菌学教室として設置が決まり、以後、長年北海道の公衆衛生、付属病院の検査、北海道立衛生研究所の設置、旭川医大の設立などに貢献してきた歴史ある教室です。自然免疫応答の研究で知られ、インターフェロン発見者の長野泰一教授などを輩出しています。

小林弘一教授は長年アメリカで研究に従事。1990年代後半にイェール大学で自然免疫の研究を行い、独立後、ハーバード大学医学部の教員としてボストンにあるダナファーバー癌研究所、さらにテキサスにあるテキサスA&M大学で研究を行いました。北大免疫学教室は小林教授が主催する研究室としては3つ目になります。 現在、免疫学教室の主な研究テーマは、①MHC遺伝子1発現の研究、②新規がんバイオマーカーと免疫療法の開発(NLRC5遺伝子に注目)、③SARS-CoV-2による免疫逃避メカニズム、④次世代ワクチン開発、⑤自然免疫:TLR及びNLR蛋白ファミリーの宿主防御メカニズム(Nod2に関して)の5つがあり、最近では、長年当研究室で研究を進めていた免疫系主要因子NLRC5遺伝子の機能を解明するとともに、免疫治療の効果予測方法の開発に成功しました。

「ウイルスに感染した細胞は、ウイルス抗原というものを免疫細胞に示してウイルスに感染していることを知らせます。がん細胞も同様に、がん抗原がMHC class Iによって細胞表面から免疫細胞に示されるという仕組みがあります。この時、免疫系の腫瘍因子であるNLRC5遺伝子が欠損しているとMHC class Iの発現が低下し、がんに対する免疫応答が低下することを発見しました」と小林教授。 そこで、NLRC5に注目し、皮膚がんの患者における治療効果を解析したところ、治療開始時にNLRC5の発現が高い皮膚がんの患者グループではチェックポイント阻害剤に対する効果が高い頻度で見られたのに対し、NLRC5の発現が低い患者グループでは治療効果が低くなることがわかりました。この研究成果は、2021年2月5日公開のScientific Reportsにオンライン掲載されました。

▲ NLRC5はMHCクラスI抗原提示におけるマスター転写因子である。

免疫の抑制分子をターゲットとしたチェックポイント阻害剤は、がん治療に有効な治療方法として近年注目が高まっていますが、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害薬は非常に高価な治療法であり、重篤な副作用を起こしたり、一番成績の良い悪性黒色腫という皮膚がんにおいてさえ20~30%の効果しか認められないという課題があります。今回の研究成果は、がん治療開始前に免疫チェックポイント阻害剤が効くか効かないかを予測判定したり、5年生存率の予測などに役立つと考えられ、治療法や薬剤選択の可能性に大きく貢献すると期待されています。

「MHC class IはCD8+ T細胞の機能に必須であるため、ウイルス・細菌感染症、がん免疫、移植免疫、ワクチン、炎症性疾患と多岐に渡る病態、生体防御において重要です。そのため、本教室の研究は幅広い分野に広がりつつあります」

自然免疫系の研究でワクチン開発の技術を開発

▲ 海外からの留学生が多く、会話のほとんどは英語。研究者としての飛躍を目指すメンバーが切磋琢磨する熱意あふれる研究室

もう1つの主要な研究テーマが自然免疫系の研究です。特に自然免疫の受容体(レセプター)であるTLRおよびNLR蛋白ファミリーの宿主防御メカニズムは、メインテーマとして取り組んでいます。

「ヒトの体内にはTLRが10個、NLRが22個あるのですが、それぞれ認識するものが異なります。その中でもNLR受容体の一種であるNod2は、クローン病2発症メカニズムに関係があると考えられています。私たちの研究では、Nod2に変異がある人は腸管粘膜恒常機構に影響を及ぼし、クローン病を発症しやすい状況を作り出していることを発見しました」
この研究成果は、臨床応用に直結するものとして注目されています。また最近は、広く動物界に存在する自然免疫系を発見し、この応用として新規ワクチン開発技術を開発し、この技術はがんワクチン、SARS-CoV-2などのウイルスワクチン、結核ワクチンなどに応用が可能です。

▲ 抗原提示の制御メカニズムを研究している大学院生の春日優介さん、坐間のゆりさん、Zhu Baohuiさん。

小林教授は、免疫学研究室での研究スタイルについて、「流行に走らず他人がやらない研究を行うこと、長い目で見た時に人類の知に貢献できる研究を行うことをモットーとしています。一つひとつの問題に向き合い、じっくり解き明かしていくのが日々の楽しみです」と語っています。小林教授がアメリカの大学との兼任のため、徐々に北大に移行してきたという経緯もあり、積極的に国外からのスタッフや熱心な留学生を取り入れており、非常に国際色豊かです。ほとんどの会話・会議は英語で行われ、海外とのオンライン会議も頻繁です。所属する学生は、基本的に指導教員のもと独立して研究を行い、一人ひとりが国際的に独立し、世界へ羽ばたいていけるよう、個人の成長を長い目で見守りながら各自の独立心を養っています。

「基礎医学の研究は、将来、20〜30年後の医学を大きく変える可能性があり、現在学生である皆さんが変えることができるものです。それは私自身がこれまでの研究活動を通じ実感してきたことでもあります。基礎的な医学の進歩が、臨床の現場を大きく発展させることにもつながるので、医学研究者として医学界に貢献できる研究成果をあげてほしいと思っています」

[1] ^ MHC(ヒトではHLA)分子は、近代医学において最も重要な分子の一つで、該当分野に対するノーベル賞が過去3回、計6人の科学者に授与されている。小林教授の研究グループはMHC class I分子の基幹制御因子を発見した。

[2] ^ クローン病は消化管に慢性の炎症が起こる炎症性腸疾患の一つ。寛解と再燃を繰り返し、根本的治療法は未だ確立されていない。

(取材:2021年08月)

つねに「世界」を意識できるトップレベルの授業

「日本医師会発行「ドクタラーゼ」第31号抜粋」

免疫学教室では学部生の講義に非常に力を入れています。小林教授のアメリカ時代のネットワークを活かし、免疫学における世界のトップ研究者を講師として毎年招待。ノーベル賞受賞者とともに研究してきた先生方の講義を聞き、自由に質問できるなど貴重な経験ができます。その他、主な授業は学部生、大学院生ともに英語で行ったり、多彩なアクティブラーニングを取り入れるなど、学部生の頃から世界の「一流」に触れ、世界を意識した学びが得られます。2019年秋には実際に受講した学生が医学生専門雑誌「ドクタラーゼ」に当授業を推薦し、授業風景が掲載される運びとなりました。