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vol.06 腫瘍病理学分野

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
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北海道大学大学院医学研究科 病理学講座 腫瘍病理学分野

教授田中 伸哉病理系

  • 1990年、3月、北海道大学医学部医学科卒、同病理学第2講座入局
  • 1994年、アメリカ合衆国ロックフェラー大学(花房秀三郎教授)留学
  • 1993年、細胞内情報伝達系の研究において分子標的治療の主たる標的であるチロシンキナーゼからのシグナル経路を解明
  • 2000年、北海道大学医学部病理学第2講座助手。講師、准教授を経て2008年より同大学院医学研究科腫瘍病理分野教授に就任
  • 同年探索病理学講座(寄附講座)教授(兼任)
  • 2002年、日本癌学会奨励賞受賞
  • 2003年、日本病理学会奨励賞受賞

基礎研究と病理診断を両軸に
病気のメカニズム解明とがんの個別化医療に取り組んでいます

腫瘍病理学分野では「トランスレーショナル・パソロジー」を基本方針としています。「橋渡し病理学/探索病理学」などと訳され、基礎研究の成果をいち早く臨床へ応用する病理学です。田中伸哉教授の研究室では、がん医療を中心に、がんの発生・転移・再発のメカニズムの解明、がん治療薬の開発につながる病理診断方法の開発などで最先端の研究を行っています。

「最近は病理診断の結果が治療方法だけではなく治療薬をも決定することが主流になっており(コンパニオン病理診断)、それをさらに発展させ、なおかつより迅速・確実に実現することがトランスレーショナル・パソロジーの目的です。特に私たちの研究室では、がんの個別化医療を目指した研究に取り組んでいます」

田中教授の研究室には分子生物学、細胞生物学に精通するスタッフが多数在籍し、がんの原因となる新しい遺伝子やがん細胞を増殖させるシグナル伝達系を次々と明らかにしてきました。特に現在のがん医療に深く関わる シグナル伝達アダプター分子CRKDOCK研究では、これらの分子を世界で初めて発見して以来世界をリードし続けています。また、腫瘍の再発の原因となる幹細胞の検出や新しいがんのバイオマーカーとなるマイクロRNAの研究でも続々と新しい成果がでています。

脳腫瘍細胞のグリア間葉転換
▲ 脳腫瘍細胞のグリア間葉転換
アクチンファイバー(赤)と細胞接着斑(緑)が発達

2013年、田中教授の研究グループは脳腫瘍の転移・再発における新しいメカニズムを解明し、「NEURO-ONCOLOGY」という海外の科学雑誌に紹介されました(2014年5月号)。

「解明したのは GMT(glial-mesenchymal transition:グリア間葉転換)とよばれる現象についてです。放射線は有効な治療法ですが、中には再発する場合もあります。これは放射線照射によりがん細胞がGMTを起こし、ある形態から別の形態へ転換することで再発することを解明しました。患者さん個人個人でGMTのおこしやすさをあらかじめ予測できればより効果的な治療につながることが期待されます」

研究室には全道から年間200例以上の脳腫瘍の病理検体が集まってきており、実際の患者さんの腫瘍組織を使って仮説を立てました。そして、北大の放射線治療装置を使って実験を繰り返して仮説を検証しました。

「多くの患者さんの組織を用いることができるのが、病理学教室の強みですが、それは教室には多くの病理専門医が在籍しており、私たちが研究と同時に日常的に診断も行っているからです。旭川医大や札幌医大からも診断の依頼を受けることもあります。今回の解明につながる多くのデータを得ることができました。今後はGMTを阻止する手法や治療薬の開発につなげていく予定で、北大病院と連携してすぐに個別化医療に本格的に取り組む考えです」

多様な分野の才能と個性が連携し、
がんの謎を解明する研究に取り組んでいます

田中教授は1993年にシグナル伝達のアダプター分子Crkの研究で、がんの増殖に必須の「チロシンキナーゼからRas分子へ」のシグナル経路を世界ではじめて明らかにしました。この成果は20年の時を経て、現在世界のがん医療の中心のチロシンキナーゼ阻害剤などがんの分子標的治療薬の発展につながっています。腫瘍病理学分野では、新しいシグナル分子C3G、Dock180、Dock2などが次々と発見され、がんのシグナル伝達研究は同分野の大きな柱の1つとなっています。

がんの個別化医療
▲ がんの個別化医療:次世代シークエンサーを用いて遺伝子変異のプロファイルが解析される(北大病院臨床研究開発センターのバイオバンクにて)

「この成果があるからこそ、現在の研究が大きく発展しています。最近は、肺がん細胞がシグナルアダプター分子を利用して、まわりの正常細胞と連携して(がんと周囲環境)悪性化に関係していることを発見しました。現在論文化を急いでいるところです」

こうした研究成果は次々と臨床に応用され、多くのがん患者の治療に役立っています。しかし、分子標的治療薬は一時的に効果があっても耐性が生じることも多く、数年後に必ず再発すると言われています。

「再発のカギを握っているのは、幹細胞と呼ばれるがん細胞の親分のような存在と考えられています。幹細胞は正常な細胞と見分けがつきにくいのですが、現在、幹細胞だけをあぶり出す方法を検討中で、成功すれば北大発の画期的な研究成果になると期待されています」

田中教授の研究室には、医学部をはじめ保健学科、工学部、獣医学部、薬学部など多様な分野から研究者が集まっています。病理専門医とPhDのダブル講師体制を採用し、さらに北大医学研究科連携研究センター「フラテ」や探索病理学講座(寄附講座)など複数の部署に所属する研究者が連携している点が大きな特長です。特に北大病院臨床研究開発センターとは強力な共同研究体制が敷かれており、多くの臨床医と協力して、次世代シークエンサーを用いたがんの個別化医療を進めています。

「学生の皆さんには、幅広い病理学を学ぶことで本質を見抜く目を養ってほしいと思います。評価や価値観は時代によって変わりますが、それに流されず科学の本質を追究することが大切です。理学系の学生は幅広く受け入れていますので、興味ある方はぜひ訪ねてきてください」

(取材:2014年11月)

朝のひとときを名著とともに「おはようロビンス!」

毎週火曜の朝、講義が始まる前の40分間に行われる「おはようロビンス!」は、30年に及ぶ歴史と伝統を持つ勉強会。英文の教科書を読みながら医学英語や病理学に親しみ、書物から学ぶことの素晴らしさを味わいます。教科書はスタンレー・ロビンスの名著「Pathologic Basis of Disease」で、読む度に新たな発見があり、生涯身近において勉強するには最適な教科書です。毎回サンドイッチとコーヒーが用意されていて、ゆったりとした雰囲気で勉強を楽しんでいます。