北海道大学 医学部医学科|大学院医学院|大学院医理工学院|大学院医学研究院
メニューを開く
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる
閉じる

vol.49 神経薬理学教室

  1. HOME
  2. 医学院
  3. Research Archives
  4. 生理系
  5. vol.49 神経薬理学教室
北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
最新の解析技術を駆使し、脳の作動原理のデザインを読み解く

北海道大学大学院医学院 薬理学講座 神経薬理学教室

教授吉川よしかわ 雄朗たけお生理系

  • 1996年4月~2002年3月、東北大学医学部医学科
  • 2002年4~2004年3月、福島県太田総合病院附属太田西ノ内病院 研修医
  • 2004年4月~2008年3月、東北大学医学系研究科 博士課程
  • 2009年4月~2016年3月、東北大学大学院医学系研究科 機能薬理学分野 助教
  • 2016年4月~2023年4月、東北大学大学院医学系研究科 機能薬理学分野 准教授
  • 2023年5月~現在、北海道大学大学院医学研究院 神経薬理学教室 教授
  • 2023年10月~現在、北海道大学 脳科学研究教育センター 教員

脳内ヒスタミンの除去機構に着目した薬理学研究

▲ 「我々を我々たらしめているのは脳であり、脳の神経ネットワークが不調になった場合にどのように治療するかという点で薬の役割は大きい。そこが神経薬理学の面白さであり、意義のある学問領域だと思います」と語る吉川教授

1922年(大正11)に薬理学講座として開設され、100年以上にわたる歴史を積み重ねてきた神経薬理学教室。吉川雄朗教授は、第6代教授として2023年に就任し、脳内神経のメカニズムの解明とともに、薬理学に関する研究・教育に携わっています。 「脳内神経のメカニズムを解明する基礎的な研究はもちろんですが、医学部の使命として、人の健康に役立つことを意識した研究・開発も重要と考えており、薬理学的なアプローチによる予防・診断・治療や創薬につながる研究にも取り組んでいます」と吉川教授。

主な研究テーマは、(1)睡眠覚醒に関わる神経系の機能解明、(2)過眠症を標的とした創薬研究、(3)自閉症に関わる研究の3つ。(1)と(2)はヒスタミンと神経ペプチドに着目し、睡眠と覚醒を司る神経機構の機能解明に取り組んでいます。
ヒスタミンは、アレルギー反応や胃酸分泌に関わる生理活性物質として広く知られていますが、脳内では神経伝達物質として機能し、ヒスタミンに強い覚醒作用があることも知られています。しかし、覚醒に重要な神経回路やREM睡眠/NREM睡眠[1]への影響などについては解明されていないことが多く残されています。またニューロテンシンなどの神経ペプチドについても同様にまだまだ脳機能における役割が十分にわかっていません。本教室では様々な遺伝子改変動物やアデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子操作、オプトジェネティクス、ファイバーフォトメトリーなどを用いながら睡眠覚醒機構の全容解明に取り組んでいます。

▲ マウスの脳波や筋電図を計測したデータ。通常時や薬物投与時のデータを計測し、覚醒や睡眠(レム睡眠とノンレム睡眠)に与える影響を検討する。

吉川教授は、これまでの研究により、ヒスタミンを分解する作用があるHNMT(histamine N-methyltransferase)が脳内ヒスタミン濃度制御において重要な役割を担っていることを示しました。HNMTは脳内ヒスタミン量を減らす酵素であるため、HNMTの活性・不活性を制御することで睡眠や覚醒の異常を改善できるのではないかという仮説を立て、ヒスタミン濃度とHNMTとの関連性について研究を進めています。
「現在、大学や企業が保有する化合物ライブラリなどを活用し、HNMTを阻害する化合物のスクリーニングや化学修飾による機能強化などを検討しています。この研究は、日中に何度も強い眠気に襲われる睡眠障害である過眠症(ナルコレプシー)の治療に役立つのではないかと期待され、BINDS(創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム)の支援を受けながら創薬に向けた研究を進めています」と吉川教授は語ります。

また、ヒスタミン神経系は、ヒトや哺乳類などの攻撃性・暴力行為にも関連すると考えられており、統合失調症や双極性障害、自閉症スペクトラム障害、アルツハイマー病、うつ病など多くの中枢神経疾患とヒスタミン神経系との関連が報告されています。本教室では、これら中枢神経疾患の病態解明と、それに基づいた創薬研究も進めています。

[1] ^  REM(レム)睡眠/non-REM(ノンレム)睡眠
レム睡眠は、就寝中に脳が活発に働いている状態で、まぶたの内側で眼球が動く。一方、ノンレム睡眠では眼球運動は見られない。

過眠症の治療を目指した神経系の機能解明

▲ HNMTのタンパク質濃度を測定のため準備をするAnneさん

フィリピンからの留学生であるAnne Bernadette Agu(アン ベルナデッテ アグ)さんは、吉川教授のもとで脳内ヒスタミンとHNMTの関係性の解明に取り組み、次のように語っています。「過眠症の治療のためにHNMTに関連した研究を行なっています。その中でも、人体の他の部位に影響せず、脳にだけ作用するような化合物を見つけることが目的です。HNMTに特異的に作用する阻害薬を発見し、治療につなげることができたら嬉しいですね」

睡眠や覚醒に関わる脳内物質はヒスタミンだけではありません。本教室では、神経伝達物質(神経細胞と神経細胞との情報のやり取りを媒介する物質の総称)として神経ペプチドに着目しており、その中でも特にニューロテンシンやガラニン、メラニン凝集ホルモンなどに注目しています。ニューロテンシンやガラニン、メラニン凝集ホルモンもまた、睡眠や覚醒に関係する物質であると考えられていますが、これらの作用についてはまだ解明されていない点が数多くあります。これらの機能を明確に示すことにより、睡眠と覚醒を制御する新たな機構を解明し、不眠症や過眠症、さらには神経変性疾患などへの治療へと応用していく考えです。
「ナルコレプシーをはじめとする過眠症は、患者の日常生活にさまざまな害を及ぼす深刻な症状であり、治療薬の市場規模は世界的にも大きく拡大しています。私たちの研究成果は、こうした状況に貢献するものとして大きな期待がかけられています」と吉川教授。

本教室は、吉川教授をはじめ、講師2名、助教1名、事務補助員1名、技術補助員1名、博士課程2名、修士課程2名が所属しております。教育面においても積極的にロールプレイ等のアクティブラーニングを取り入れ、高校生を対象としてVR(virtual reality)ゴーグルを用いた模擬実習を行うなど、活発に活動しています。また、勉強会については週に1回、英語での抄読会を行うほか、学部学生を対象に薬理学教科書の輪読会などを実施。英語の薬理学教科書の輪読会も9月からスタートします。
吉川教授は、「英語に触れる機会も豊富に用意されているので大学院生には、海外発表の機会や海外への短期留学にトライしてほしいと思います。また学部学生の海外留学もサポートしています。今年は医学部3年生が1名、米国サンディエゴに研究留学しました。」と語り、日々の研究活動を楽しみつつ、海外へも視野を広げることを推奨しています。

(取材:2024年7月)

自主性を尊重した研究環境

▲ 2023年の年末に開催した忘年会。国際色豊かで和気藹々とした雰囲気

本教室の特徴は、国内外から集まった個性豊かな人材が、自由にコミュニケーションできることです。神経系にこだわらず幅広い視点から医学研究を眺めることができる環境が整っており、学生の自主性を尊重し、自ら探究する姿勢を身につけることを大切にしています。
また、留学生は、一人はフィリピン出身、もう一人はトルコ出身で、2人とも料理が得意ということもあり、自国の料理を持ち寄った食事会が開かれることもあります。一方、吉川教授と長沼史登講師は、ともに前職が宮城県の大学だったため、宮城県の郷土料理である「芋煮」を楽しむ会を催す計画を立てています。