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vol.16 分子生物学教室

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
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北海道大学大学院医学院 生化学講座 分子生物学教室

教授佐邊 壽孝生理系

  • 1986年、京都大学医学部医化学第一教室助手
  • 1988年、同大遺伝子実験施設助手
  • 1990年、米国ロックフェラー大学分子腫瘍学研究室博士研究員。1993年より助教授
  • 1994年、京都大学ウイルス研究所助教授
  • 1998年、大阪バイオサイエンス研究所分子生物学部門研究部長
  • 2009年、北海道大学大学院医学研究科分子生物学分野教授に就任、現在に至る

現在の医学研究は、がんと代謝、免疫との関係に新たな扉を開きつつあります

「何かを発見して、そこにどのような意味があるかと考えながら夢中で論文を書いていると、ゾクゾクします」と分子生物学教室の佐邊壽孝教授は話します。「研究のおもしろさは、実験を行って結果を出すことだけでなく、見えていない部分に何があるのかを考えること。Aがあってその結果がZだとしたら、その間をつなぐ仮説が欠かせません。”仮説立て”こそが研究者個人の独創性と力量が問われるところです。夢中になれる研究の成果を医学・医療に生かし、患者を救うことができるなら、これほど良いことはないと思います」

2009年から本教室を率いる佐邊教授は、乳がんや腎がん、膵臓(すいぞう)がんのがん化細胞がどのようにして悪性度を増すかに着目し、その分子的実態の解明に取り組んできました。乳がんの浸潤を促す新しいシグナル伝達経路の発見、細胞内輸送や細胞骨格動態などに関与する低分子量Gタンパク質Arf6が、他のがん関連タンパク質と相互作用して、がんの浸潤・転移や薬剤抵抗性をもたらす仕組みの解明など、がんの悪性化をドライブする根幹的仕組みを次々と明らかにしています。これらの発見は臨床への応用も期待され、常にマスメディアの関心を呼んできました。

本教室の教授就任後は、若手研究者を力強くリードし、2016年は、リゾフォスファチジン酸(LPA)が、腎がんの悪性度を促進する主因子であることを発見。長年不明であった仕組みの一端を解明しました。さらに、血中コレステロール値を下げる薬「スタチン」に、特定の形質を持つ乳がんの浸潤・転移や薬剤耐性の働きを妨げる効果があることを突き止め、米国がん学会(AACR)から優れた研究として選ばれています。2017年5月公開の米国企業のウェブ新聞「Cytoskeleton Newsletter」では、Arf6のメカニズムをテーマとする特集記事に引用された17論文中6編が本教室によるもので、世界におけるArf6研究のフロントリーダーとして存在感を放っています。

現在も、膵臓がんの悪性度進展や治療抵抗性に関する5編の論文を投稿中です。佐邊教授は「膵管がんは多くの場合、診断時にすでにがん細胞が他臓器にも散らばっており、また、抗がん剤や放射線にも強い抵抗性を示します。このようなことは他のがんにも見られることですが、なぜ膵管がんで頻発するのか、どのようにして浸潤・転移性が誘起され、抗がん剤や放射線治療への強い抵抗性とも連関するのかを追究し、ゲノム状態変化を含む分子メカニズムの詳細を明らかにしました。この発見により、膵管がんの悪性度の判断基準が明確になれば、個々の患者に対するprecision medicineの開発につながります」と成果に期待します。さらに「これからのがん研究に求められるのは、各々の患者の食事や栄養、代謝状態、免疫を視野に入れた研究です。そのための扉は開きつつあります」と先を見据えます。

皆が高揚感を持って独自の研究に取り組んでいる楽しい教室です

教室には若手スタッフとMD-PhDコースに在籍する大学院生が4人、他教室の院生や医学部学生が10人ほど参加し、研究に取り組んでいます。がん化にかかわるタンパク質を細胞膜へと運ぶ細胞内輸送や、生命維持の基本となるミトコンドリアの動きや形態を制御し、がんを悪性化させるミトコンドリアダイナミクス・代謝リプログラミングの研究、再生医療に関わる細胞の新しいメカニズムを解明するゲノムintegrityの維持機構と崩壊、などの先端的分野でめいめいが世界をリードする研究を推し進めています。

教室での研究は「すべて人まねではなく、私たちが発見して20年近くかけて築いてきたもの。独自に何かを見いだし、それを生涯追究するというスタイルは気が楽です」と語る佐邊教授。独自の研究を生涯追究するとは、米国ロックフェラー大学赴任時代から師と仰ぐ花房秀三郎博士(1929-2009)の研究スタイルに通じています。博士は「人まねはせず、自分で考え独創性を貫く」をモットーとし、がん遺伝子の発見で、1982年に日本人初のラスカー賞を受賞した世界屈指の分子生物学者です。佐邊教授は「このようなある意味頑固なやり方は、時として時流に乗り遅れたように見られることもあります。一方で、最新の技術や解析法はいち早く取り入れるように意識しています」と言葉に力を込めます。

「日々の研究は地道に進めていますが、その傍らで絶えず先を見据えています。今はまだ解けないような問題であっても、理論的にはどのようなアプローチが可能かを議論し合い、次の研究へと結びつけています」。教室の若いスタッフや大学院生は、実験の合間に、数理生物学や”場の安定性”に関する物理学などの勉強に励んでいるといい、「皆が高揚感を持って研究に取り組んでいる楽しい研究室です。国内外の研究者との交流も活発で、オックスフォード大学の夏季実習に医学部学生を送り込むなど友好関係を築いています」と語っています。

(取材:2017年12月)

トップレベルの研究者が参加する研究会で学生も刺激を受けています

シグナルネットワーク研究会集合写真
▲シグナルネットワーク研究会集合写真(2013.8.30-31開催、北海道大学医学部フラテホールにて)

15年ほど前から「シグナルネットワーク研究会」を毎年開催し、日本の当該分野の第一線で活躍する研究者や学生との交流の場を築いてきました。毎回、100人ほどが参加します。他研究室の教授やスタッフ、院生とのざっくばらんな発表会と議論が、学生に刺激を与えています。また、食生活改善のがん治療への有効性を提言する和田浩巳博士(からすま和田クリニック院長、元京都大学教授)が主催する「一般社団法人日本がんと炎症・代謝研究会」の理事を務め、教室の院生ら共々、会員や若手医師に向けた教育講演を行ない、インターネット配信をしています。