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vol.09 神経生理学分野

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北海道大学大学院医学院の教員・教室を紹介します
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北海道大学大学院医学研究科 生理学講座 神経生理学分野

教授田中 真樹生理系

  • 1994年、北海道大学医学部卒業
  • 1998年、同大学院修了
  • 1998~2001年、ハワードヒューズ医学研究所研究員(UCSF)
  • 2002より北海道大学医学研究科講師、助教授、准教授を経て2010年11月より現職
  • 2006~2010年、JSTさきがけ研究者を兼任。日本神経科学学会奨励賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞などを受賞

脳の高次機能を神経生理学的な側面から解明
時間知覚や注意、行動選択などの脳内メカニズムを研究しています

脳科学は世界的にも研究が盛んな分野で、今後数十年で大きな進展が期待されています。脳の「どこ(where)」が特定の機能に関係し、脳が「なに(what)」で構成されているかといった面では多くのことが解明されています。しかし、脳各部のニューロンが実際にどんな情報を持っていて、それらを「どのように(how)」処理することで人間の行動や精神活動が生じているのかという、脳機能の本質ともいえるそのメカニズムについてはまだ多くの問題が手つかずのままです。こうした脳の情報処理に焦点を当てて研究を進めているのが、田中真樹(まさき)教授をリーダーとする神経生理学分野です。

「私たちの教室では、ヒトに近い脳を持つサルを使って高次脳機能のメカニズムを調べています。脳各部の神経活動を単一細胞レベルでとらえ、それらが行動や知覚判断にどう関与しているか、また、その障害によってどのような精神・神経症状が生じるのか調べています。こうした研究分野は、多数の脳部位から成るネットワークでの情報処理を解析することから、システム神経科学(Systems Neuroscience)と呼ばれています」

サルのMRI画像・小脳核ニューロンの活動
▲左図:サルのMRI画像
▲右図:小脳核ニューロンの活動。繰り返し刺激に対する応答が徐々に増大している

中でも画期的な研究成果をあげているのが、リズムやタイミングといった時間知覚に関する研究です。

「私たちの五感に時間感覚というものはありません。時間を計ったりリズムを感じたりするための情報は脳内でつくり出されています。時間知覚には大脳皮質に加えて小脳、大脳基底核、視床など多くの脳部位が関わると考えられていますが、そのメカニズムは不明です。最近、私たちは小脳に注目して研究を行いました」

実験では、一定間隔で繰り返される視聴覚刺激が一拍抜けたことを報告するようサルを訓練し、リズムを学習する際に小脳にどのような神経活動が生じているか調べました。

「実験の結果、繰り返される刺激に対して小脳核ニューロンが応答を増大させることが分かりました。神経活動を抑制する微量の薬物を小脳に投与するとサルの反応が遅れることも確かめられ、この情報が次の刺激のタイミング予測に使われていることが明らかになりました。同様の障害は小脳変性症の患者さんでも観察され、私たちがリズムを感じる際には小脳のこうした神経活動が重要であると考えられます。サルを使った実験中は、電極から記録される神経活動を音に変換してモニターしています。こうした『脳の音』は記録する脳部位によって大きく異なり、まさに情報処理を行っている生きた脳を実感することができます」

時間知覚などの高次機能は認知科学や心理学、哲学などでも扱うテーマですが、本研究ではあくまでも生物学的な指標である神経活動で様々な現象を説明しようとする点が特徴で、ある意味、文理融合を目指した研究と言えます。

霊長類モデルを用いた生理学実験ができる道内唯一の研究室
脳のしくみを解明することで医学の進歩に貢献

神経生理学分野には医学以外にも理学、薬学、工学、教育学などの分野から人材が集まっています。医学部からの進学者の多くは研究者養成プログラム(MD-PhDコース)に所属し、医学・医療分野の研究者を目指して頑張っています。さまざまな興味・関心を持つ研究者が自由な雰囲気の中、互いに協力しながら切磋琢磨する環境が醸成されているのも本分野の特徴です。
現在、上に紹介した時間知覚のほか、注意の神経機構やルールによる行動選択、短期記憶の空間特性などについても研究を行い、数々の成果をあげています。

「今後は、従来の電気生理・薬理学実験に加え、サルへの遺伝子導入、放射線照射による疾患モデルの作成、小脳変性症患者の行動解析など新しい研究プロジェクトも並行して進めていく予定です。とくに、分子ツールを用いたシステム神経科学研究は、ウイルスベクターを使った遺伝子導入技術の開発が急速に進んでおり、私たちも大いに注目しています」

現在、遺伝子導入実験は主にげっ歯類で行われていますが、今後はサルに適用することでより高次な脳機能の動作原理が明らかにされるものと期待されます。こうした新しい技術と若い力を取り入れることで、本分野の今後の研究活動には大きな可能性が秘められていると言えます。

「医学部の大学院は、基礎研究であってもヒトの理解を目指しているという点で臨床への貢献度が高いといえます。また、脳機能研究は独創性がとくに問われる分野であり、個々の研究者の自由な発想に基づいたオリジナリティ豊かな研究に挑戦できます。研究を通じて自己実現する、そうした世界に魅力を感じる人には、自分の能力を存分に活かせるチャンスがたくさんあるので、ぜひ飛び込んでほしいと思います」

(取材:2015年2月)

ロジックを鍛える抄読会

神経生理学分野では毎週、大学院生を中心とした抄読会を開催しています。当番の学生が自分の研究に関連した英文論文を選び、その内容について発表。参加者からの厳しい質問や討論を通じて理解を深めます。日頃から優れた論文に触れ、詳細かつ批判的に読み解くことで、知識を深めるとともに研究の進め方を学び、プレゼンテーションの技術を磨きます。毎回、内容の濃い論議が交わされ、研究者としてのスキル向上に役立っています。