『年頭の挨拶』カリキュラムと論文

教務主任 長嶋 和郎


北大医学部およびその出身研究者の仕事で昨年発表された優れた業績として は、一般的にはNatureとかScienceに掲載された論文が挙げられよう。それら の中から私の独断で選ばせてもらうと、FRET (fluorescent resonance energy transfer) を用いて活性化ras蛋白の生きた細胞内での局在を明らか にした論文が最も世界の注目を集めた仕事であろう[1]. 昨年の6月中旬、 北大構内の学術交流開館で開かれていたシンポジュームで、某シンポジストが 「将来、細胞内蛋白の動きを色彩の変化で見られるようになるであろう」 と 話を結んだが、すでにNature掲載の内容を事前に知っていた我々は改めてこの 仕事のすごさに驚いた次第である。First authorのMochizuki君を良く知って いるが、彼は学生時代にはスポーツに専念し、卒後すぐ臨床に行ったが、決し て優秀な院生ではなかったらしく、手を焼いた教授が私に指導を依頼してきた 位である。私が持っている印象と言えば、「明け方まで薄野でお酒飲んでいて も、早朝白衣に着替えて患者さんの検査に向かう姿」 くらいである。優れた 仕事をするヒトにとっては学生時代の授業とか卒後の研修などは余り関係がな いという例であろう。逆に 「決して優秀と見られなかった」 ことを燃料とし て充電し、研究に没頭する中で発奮し、持っていた本来の才能が30歳代の後半 になってはじめて開花したものと思われる。考えて見ると、隠れた才能を有す る彼のような学生は例外であり、大部分の学生には素晴らしい研究が出来る素 地を提供しなければならないと思われる。そのような環境が北大医学部にあれ ば、Mochizuki君はもっと早く開花していたのかもしれないと、研究者を預か り指導する我々に大きな責任を感ずる。優秀な研究者への道を作り、学部教育 と大学院過程との密な連携を結ぶ、いわばMD-PhD courseの設置が重要と思わ れる。

 多くの学生は臨床医になることを目的としており、その場合習熟した臨床家 を送り出す必要がある。今までもその努力はされていたが、ことアメリカの医 学部卒のドクターと比べると、未だ情けないのが日本の現状のようである (私信)。教える側のスタッフの数が違うのと、スタッフの体力が違うのと、 実地医師を育成する精神が違うのかもしれない。幸い、アメリカでの臨床経験 者や臨床教育方針と精神を修得した医師が増え、狂牛病問題で安くなったステー キを食べればアメリカ人並の体力を発揮できる教育者が北大病院には何人も集 まってきている。システムと精神と体力は大丈夫である。従って、残った問題 であるスタッフの数の少なさを埋めるには臨床実習期間を長くすることで対応 するしか仕方ないと思われる。

 新しいカリキュラムを組むに当たり、小人数ではあっても優秀な研究者を育 てる道を作り、大部分の臨床医を目指す学生には充分な時間を掛けた臨床コー スを用意することに配慮して原案の作成を進めている。もちろん臨床医として の土台である基礎医学を幅広く固め、その上に立って揺るぎの無い医学者とし ての人格を形成することが最も重要であることは言うまでもないが。

1. Mochizuki et al. Spatio-temporal images of growth-factor-inducedactivation of Ras and Rap1. Nature. 2001 Jun 28;411(6841):1065-1068.


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